それではなぜ、広大な裾野から山が突如現れるのでしょうか。その答えが、先ほど取り上げた“人間の情報処理モデル”と“m-SHELモデル”です。

人々は社会という枠組みの中で、言わばマネジメントされ、守られて生活しています。その生活には、m-SHELモデルで示すところの、“S:社会のルール”や“H:社会インフラ”、“E:周囲の環境”、“L:他の人たち”との関わりがあります。

これら社会におけるS・H・E・Lとの摺合せの部分に何も問題がなければ、人々の生活は平穏です。不具合が発生することはありません。

しかし、何かの原因で不整合が発生すると、ヒューマンエラーという不具合が起きる可能性が高くなるのです。そして、ある時ヒューマンエラーが発生します。

この発生したヒューマンエラーは、全てが事故として顕在化するのでしょうか。答えは、ノー(NO)です。全てが顕在化するとは限りません。

それを示すのがハインリッヒの法則です。ハインリッヒの法則の図(図1)中における傷害に至らない事例(ヒヤリハット)、これが顕在化していないヒューマンエラーなのです。

そうです。幸いにも大多数のヒューマンエラーがヒヤリハットで済んでいます。別の言い方をすれば、発生したヒューマンエラーは、間違いなくヒヤリハットを含むハインリッヒの山の何処かにつながっているのです。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『 ヒューマンエラー防止対策』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。