日本人は海外に赴任していても、どうしても日本を向いて仕事をしがちです。多様な価値観の中で生きてきた経験が少ないため、コミュニケーションがうまくありません。

しかし、自分と異なる価値観を認め、その意味を考える、こうした態度がなければ、これからの時代を生きていくことはできません。多様化する社会で生き抜くにはひとりひとりの潜在的な能力を引き出すための絶対評価がとても大事なのです。

ひとつのものさしで優秀な人間とそうでない人間を振り分ける相対評価では、個々人の能力は埋もれてしまいます。ひとりひとりの能力を高めるためには多様なものさしが必要で、それを用いて評価することが企業の成長につながっていくのです。

企業内で人が資産として機能するとはどのようなことを指すのでしょうか。私たちは企業で人生の大半を過ごし、企業は給与という形で社員の暮らしを支えます。労働を提供し、企業からその対価を受けるという関係だけで考えれば、社員は経費としての存在でしかありません。

その関係性はともすると労働と対価という直線的なものと捉えられてしまうかもしれません。企業と人は非常に薄い関係となってしまいます。

企業を定年退職した人たちの多くが会社人生を回顧し、思い出したくない、大半が嫌なことであったという感想を述べているのを耳にしますと、企業と人の関係が希薄であることを残念に感じます。

また企業が社員に要求する能力も直線的な関係のように見えます。もし人を単なる経費とみなせば、企業に利益をもたらすだけの役割で終わってしまいます。仕事を通じて人間的に成長させるという考え方はそこにはありません。十分な利益をもたらさなければ削減の対象になります。

企業と人の間には算術的な関係だけが存在し、企業側も人が資産としての側面を持っていると気づくこともないでしょう。戦後の高度成長期から1980年代後半のバブル絶頂期までであれば、そうした点と点の関係だけでも社会は動いてきました。

ところが、バブル崩壊後の20年にわたる転落の時代では、以前のような企業と人の関係性では壁を突き破ることができないとわかりました。

企業における人というものは多様で創造的な存在であることがわかってきました。またグローバリゼーションとネットの進化がさらに企業と人のあり方を変えようとしています。

こうしたことを考えると、企業は人の存在に対して、経費から資産へと、大きな意識改革を行おうとしている──そんなふうにいえるのではないでしょうか。

※本記事は、2020年1月刊行の書籍『確実に利益を上げる会社は人を資産とみなす』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。