「相続の手続きとか、あと、父は保険に入っていたんですが、自殺だからお金が出ないって言われて……。私、いい歳をして、お恥ずかしいですが、ほんとに世間知らずで、何もわからなくて、 困っています」

柚木は、何とか優子の力になってやりたいと思い、考えた。そして、適任の男を思いついた。机の引き出しを開け、名刺入れを出して開き、メモ用紙に何やら書き写した。

「奥宮さん。ここへ行って、天地という弁護士を訪ねて下さい。僕の大学時代の親友で、信頼できる男です。僕からも、彼に貴女の事を伝えておきます」と言って、優子にメモを渡した。

「光愛法律事務所……西天満(にしてんま)……天地弁護士ですか?」
優子は、メモを読んだ。

「そうです。優秀な男ですから、彼なら貴女の助けになると思います」
柚木は、そう言って微笑んだ。

「ありがとうございます。先生のご親友の方なら安心です。行かせて頂きます」と、
優子も微笑んだ。

「じゃぁ、また来週に」
「はい。ありがとうございました」

優子は柚木に深々とお辞儀をして、診察室を出た。

運命とは、かくも残酷なものである。この後、三人の男女が、それぞれの運命の歯車を狂わせる事になろうとは、天しか知らぬ事だった。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。