いつのまにか私たちは互いに依存し合う、まるで主人と忠犬のような関係になっていった。主人は従順な飼い犬のもと、気ばかり大きくなり、忠犬は偉そうな主人に従っていることで存在意義を見出している。

それは二人だけの世界ならとっても居心地が良いもので、私はハギといるのが楽だった。たまに彼が自分の思い通りに動いてくれないこともあった。そんな時、私は彼を激しく罵倒するようになった。

例えば休日のショッピングモール。家族連れやカップルで溢れかえるフードコート。空席が見つからず苛立っていると、ようやくひと組のカップルが席を立つのを見つけた。

「早く! 席取ってきて!」

私は思い切りハギの背中を押し、彼は走って今まさに空いたばかりの席に座ろうとした。ほぼ同時に、中年女性が来て席をするりと陣取った。すると彼はあっさりと席を譲って戻って来るではないか。

「なぜ戦わないの? 同時だったのだから、何も言わずに譲ることないじゃない。本当に何だったらできるわけ? このポンコツ人間!」

怒鳴られて捻くれたような態度を取る彼に、私はさらに罵声を浴びせ続けた。

「あんたにとって本当に大切なものってなんなの? 私じゃないの? そうやって譲ってばっかりで、あんたはさぞ気分が良いかもしれないけれど、私はあんたといたら我慢ばっかりさせられるわけね」

彼はモゴモゴと何か言い返したが、口喧嘩で私には敵うことなど絶対になかった。男前だと評判の顔が、私に責められるといつも怒った猫のように酷く歪んだ。言葉を持たない動物の、静かな威嚇の顔だった。私はその顔が大嫌いだった。

頭ごなしに怒鳴り散らしてばかりいるといつのまにか彼は萎縮して、私の顔色ばかりを伺うようになっていった。そういった彼の態度は、私をより一層苛つかせた。

また、彼は言うことは何でも聞いたが、自分から考えて動いてくれることはほぼなかった。典型的な指示待ち人間。私は次第に彼に物足りなさを感じ始め、要求はさらにエスカレートしていった。

もっともっと愛して欲しい。付き合ってしばらくの間セックスをしなかった彼に、やきもきする半面、私は大切にされているのだと気を良くしていた。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『不倫の何がいけないの?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。