2007年


大統領選挙と最低賃金

二〇〇七年、今年ヨーロッパは冬を経ないで春が来てしまったと言われるくらいの暖冬だったが、フランスでは三月末のここ一週間寒い日が続いている。

西フランスのレンヌでは最低気温が零度、最高気温が十度以下という天候である。先日はこの冬二度目の雪が降った。
でも、三月二十五日の日曜日から夏時間になり、時計を一時間進ませる。
フランスの春ももうすぐである。

四月二十二日にフランス大統領選挙がある。十二人が立候補している。あと一ヵ月の選挙活動だが、選挙カーによる候補者の名前の連呼もない。

テレビではニュースで各候補者の選挙運動やインタビュー、討論会、視聴者参加の候補者との対話などの番組を連日放送しているが、テレビを観なければこの国のどこで選挙活動が行われているのだろうという感じである。

私のアパートでは郵便受けに一人の候補者のチラシが投げ込まれただけだ。
こんなところは日本の選挙風景と大いに異なる。

現在の世論調査では支持率は与党(右派)のサルコジ氏(五十二歳)、社会党(左派)のロワイヤル氏(五十三歳)、中道派のバイルー氏(五十五歳)、極右のルペン氏(七十八歳)の順になっているようだ。

昨年末まではロワイヤル氏の人気が高く、フランス初の女性大統領誕生かとの予想もあったのだが、年が明けるとサルコジ氏が巻き返し逆転、バイルー氏がロワイヤル氏の票を食って支持率を伸ばしたこともあって現在はこの順位になっている。

ロワイヤル氏は社会党第一書記オランド氏が夫(正式な結婚ではなくPASCという関係で、四人の子供がいる)であるが、オランド氏より人気があり最終的に社会党の大統領候補となったのであった。

それにしても日本では最近あまり聞かれなくなった右派とか左派とかという言葉が依然流通しているフランスである。だが何を基準に右派、左派といっているのかよくわからない。

日本の感覚だと右派=保守、左派=革新というイメージであるが、右派とされるサルコジ氏は移民規制、自由主義経済推進、親米路線で、左派のロワイヤル氏は労働者保護、福祉重視、欧州主導の主張であるから、どうも日本の言葉のイメー
ジから連想すると間違えてしまいそうだ。

社会党といっても社会主義政党というより社会民主主義という感じだろうか。

選挙は二回投票制である。一回目の投票で過半数を獲得した候補者がいなかった場合、二週間後に上位二候補の間で決戦投票が行われる。五年前の前回と同様、一回目で過半数をとる候補はいないと見られているから決戦投票は必至である。

前回の選挙では予想に反して、極右のルペン候補がシラク氏に続き二位の票を集め、その二人が決戦投票となった。

大方はシラク氏と社会党のジョスパン氏の決戦と予想していただけに、移民排斥、人種差別やEUからの脱退を公然と掲げる極右のルペン氏が決戦投票に進出したときには、もし決戦でルペン氏が大統領に選ばれてしまったら大変なことになるとフランス国民は大いにあわて、反極右で結束した結果八十二%の圧倒的得票率でシラク氏が二期目の大統領に選ばれた(このあたりの経緯は軍司泰史『シラクのフランス』(岩波新書)による)。

それでも、ルペン氏の主張には常に国民の十五%くらいの支持が集まり、移民流入による雇用悪化、犯罪増加などの社会問題を背景に強固な支持層が存在するようだ。

そんな中で会社での話題は最低賃金がどうなるかである。これから会社では労働組合との給与交渉が始まるのだが、ひとつの焦点が今年の最低賃金(SMICという)がいくらになるかということである。

なぜかというと、最低賃金に近い労働者が増えてきているからだ。これは労働者の賃金が下がったのではなく、近年最低賃金の上昇率が企業の昇給率を上回ってきたことによる現象だ。

最低賃金の上昇率が高くなるとそれに対する調整額に多くの原資を割かざるを得なくなり、昇給の配分政策に制約が
生じるのである。

最低賃金と大統領選挙がなぜ関係があるかというと、各候補とも掲げる公約のなかにこの最低賃金をいくらにするかという項目が入っているからである。会社の人事部長いわく、今年は大統領選挙の年だから例年より最低賃金が上がるのは間違いない。

もし左派のロワイヤル氏が当選すればその上昇率は高くなり、右派のサルコジ氏になればそれほどは上昇しない。バイルー氏はその中間だ。

仮に共産党の候補が大統領になるとその上昇率はとんでもないものになる、ということだ。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。