これはどこかおかしいと私は思うのです。1年間の利益を生み出した人間は、翌年も利益を生み出す実体として存在しており、さらに磨きをかければ、翌年以降、継続的により大きな利益を生み出すはずです。つまり高い能力を秘めた優良な資産なのです。

この重要な事実が決算書から捨象されていることで、社員の存在は希薄になり、育て方もわからなくなっているのが企業経営の現状といえるのではないでしょうか。

これでは、企業にとって人が大事と頭ではわかっていても、具体的な育成方法を考えることはできません。現状の人材力を数値で表すことで、目標利益を達成するための不足分を明確に認識することができるのではないでしょうか。

つまり人材力を定量的にはかることができなけ れば経営は進化できないのです。科学は計測する技術を持つことにより発展してきました。現在の決算書には人を資産として 計測する力がありません。

企業が扱う製品は科学の力を借りながら飛躍的に進化してきましたが、経営は人を定量的に扱うことがありませんでした。経営が科学に近づくことができなかった理由がここにあります。

経営を進化させるためには、「企業は人なり」という概念を決算書にも表し、定量的にものを考えることが必要なのです。そうすることではじめて人と企業がともに進化できるのではないでしょうか。

企業活動の結果として、過去の利益のみを定量的に把握するだけではなく、人の成長を計測することがなければ、社会が本当に豊かになることができません。長い時間をかけて人材教育を行う企業は多いものの、果たしてそれが適切であったのか、教育に投入した費用や時間と業績の関係を十分に計測できていません。

教育の効果は目標利益との関係で見るしかありません。教育を通じて人が成長し、結果として企業の利益に結びつくまでには、さまざまな選択肢があるはずです。

利益だけを見て教育の仕方が正しかった、あるいは効果がなかったと判断するだけでは適切ではありません。教育によって人が成長し、さまざまな経験を通し利益を生み出していく姿を定量的に捉えてはじめて結果が見えてくるのです。

このように人が大事といわれながら、その価値をきちんと計測しないまま経営を行ってきたところに、人材が育たない大きな原因があるといえます。