「いやー、お疲れ様です。すごい盛り上がりだったね、思わず圧倒されちゃったよ」
翔一は、素直な感想を口にした。

「ここらに来る奴らはね、赤坂から流れてくるTV局関係の人間が多くて、選曲ミスさえなければ、比較的踊ってくれるから、かえって楽にプレイできていいよ」

及川はそう言ってから、
「もう、翔ちゃんのほうは終わり?」と続けた。

「うん、山崎にまかしてきたよ今日は、他にちょっと用事があってね」翔一が言う。

「えっ、用事ってなんかあるの? 俺も、翔ちゃんに用があったんだよ。あとでお店に顔を出そうかなと思ってたんだ」及川が言った。

「じゃあ、ちょうどよかったじゃん、ナイスなタイミングだね。で、用事って、これ?」と言って、右手の人差し指と親指で、煙草を挟む形をつくり、煙草を吸うように、唇のところへ持っていった。

このサインは、マリファナに類する言葉を声に出して言わないときに、みんながよく使うポーズ。

翔一の出したサインに及川は、小さくうなずいた。

「なーんだそうだったの、こっちの用もそれだったんだよ」翔一が、そう言って笑うと
「あーっ、そうだったんだ」及川も、一緒になって笑った。

「それで、どのくらいなの量は?」翔一が訊く。
「100、お願いするよ」及川は、取引する量をはっきりと言った。

「OK、予定は明日の夜までに連絡する。それでいい?」そう言うと。
「お金は、もう出来てるからね」及川が言った。

二人は、お互いの用件を簡潔に済ませた後、最近の音楽情報や、現在この街にある店や、今後、オープンするという噂のお店なんかについて、語り合ったり。互いが、持っている音楽に対する意見や、見識を述べ合って、気づかないうちに長い時間が過ぎていってしまう、

いつでもそんな感じ。

「ご飯でも食べに行きましょうか」翔一が言う。

あまりにも、話し込みすぎて収集がつかなくなった頃、先に気づいたほうが、会話を強制終了させることにしている。

「そぉだね、おなかもすいてきたね」
「なにを食べようかな。でも、その前にとりあえずは、一服だね」

翔一は、ジーンズのポケットからパイプを取り出しながらそう言った。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。