セットリストNo.1(第一章)

3 Telephone Line–Kraftwerk

今まで片山には、1グラム3000円で渡していた。東京で、マリファナを手に入れようとしたらこの値段は『相場』ってやつだ。

しかし、値段は数量の多い、少ないで変わってくる。一般社会で言うところの『市場の原理』っつうお固い言葉が、こんなアンダーグラウンドな世界の取引にもあてはまるということは滑稽に思えてしかたないのだが。

片山という人間がドラッグ好きであることは、知っている。片山が、翔一と付き合うことについて、彼のプラスになると、考えていることも間違いない。翔一にとっても片山の取り扱うマリファナの量が、増えるということは表面的にみて、決してマイナスにはならない、だからふたつ返事で3000円から2500円に値段を下げたのだ。

しかし、これにはもう一つ理由がある。片山という男には、どんな小さなことでも自分に対する『不信感』を持たれたくない、それは万が一のとき、非常にマイナスになる要素だから。

「2500円でいいよ」と言ったとき片山の声のトーンに、翔一が想像した通りの変化が現れたのを聞き逃さなかった。おそらく、彼の予想していたプライスダウンの額は、2700円ぐらいだったんだろう。

1グラム3000円なら、100グラムで30万円、2500円なら25万円、その差額の5万円は、片山の利益になる。たった1日、ほんの数時間動いただけで、かなり率のいい仕事なはずだ。彼に、マリファナをオーダーする人間がいて。翔一との付き合いが、これからも続いていく限りこの利益は、しばらく確実なものであるはずだ。

商売がらみで、繫がる人間には、利益を手に出来るようにしてやらなければならない、それも『一番』と思ってもらわなければ、なんの意味も無いこと。理由は、もう言わなくても解るでしょう。これは『ハンザイ』だから。