こんな話を聞いたことがある

感受性というのは
人間にくっつくその前には
源泉たる聖地のようなところにある
「至高の美」「無上の快楽」のようなもので出来た海の中に
しずかに揺蕩(たゆた)っている

そしてその感受性は
この世に産まれてくる一人一人の赤ん坊に
くっついていく

その際
もとあった至高の海の記憶も
その海へ辿り着く道筋の記憶も
ほとんど消されてしまうという

だから
赤ん坊はこの世界に生み出された瞬間から
泣いてばかりいる
それでもかすかに残された聖地の海の記憶は
人の幼い日々を甘色に染め
その後の人生に甘い夢想を抱かせるのだが
その淡い虹色の記憶も
人の成長とともにだんだんに薄れていき
ついには明け方の星影のように擦れて消えてしまう

ところが

その曲を聴いたとき
自分の中に消されていた
その幻の海へと続く道の入り口に
いつのまにか戻ってきている自分を感じた

至高の美の海へと導く
華麗な花園の小道を裸足で駆け抜けていくような感覚
夢のような幸福に導かれながら
鮮やかな花園の中を駆け抜ける時の
しなやかに全身を擦り抜けていく
柔らかな花びらの質感と
色とりどりの花々の目を洗うような鮮やかさ
迷路のような曲がり角をひとつまがる度に
濃密になっていく
忘れていた源泉の匂い……