圧倒感

廃屋の裏手に
世が世であれば信仰の対象になりそうな
妙に背の高い杉の古木が一本あった

人は
ある程度以上大きな対象を前にすると
自分の存在が影のように霞む感覚を覚え
対象が更に大きくなると
容赦ない圧倒感や一種の威圧感を覚える

ある程度以上の大きさを持った対象は
一種のオーラを持ち合わせているが
あまりにそのオーラが大きいと
内面の一部は卑小な自分を離れ対象に移りかける
そうなると更に余計に
自分が卑小な取るに足らないものに思えてくる

これは
三次元世界の醜さや生々しさに嫌気がさし
理想のみを極端に固めたような二次元世界に興味が移り
いつのまにか
どっちが現実だか分からなくなっている状態にも
少し似ている
確かにこの煩雑な社会の中でリアルな自分を感じれば
二次元やバーチャルに逃げたくなる気持ちも分からなくはないと
二次元もバーチャルのバの字も見かけない寒村で自分は思った

だが
幻影の世界でつかのま酔わされ
一時的に意気がったり強がったりしてみても
大切な人の「死」のような
本物の現実を前に今の自分には何一つ出来ない
という数か月前の切実な自覚は
珍しく私の中に太い根を張り続けていた