「それが、結構まとまりそうなんだけど『数字』が出てこないんだよね、まあ確実なセンで言えば100から150の間ってところなんだけど完全に、手にのっかる予定を出さないうちは『ダメッ』って奴もいて、かっちりした数字が出ないところなんだよね」

片山が言った。

「ずいぶん財布の紐のかたい奴だね、そんなかったるい奴のオーダーは断っちゃえばいいじゃん」

翔一が言うと「いやぁそれも言いにくい相手なんだよねこれが。まあトラブルは絶対にないしキャッシュも、先にツケてもらうことになってるからさぁなんとか翔一君のほうで、やってもらえないかな。品物が確実で、間違いのない人にしか頼めない状況なんでお願いっ」

片山が受話器の向こうで、きっと頭をさげてるな、そんなことを『ふっ』と思った翔一は「確実で間違いのない」という片山の言葉に、気分を良くしたことも手伝って

「OKいいよ、引き受けてあげるよ。明日中にゲットできる日にち、確実なセンで出して連絡するよ。どこへ連絡すればいいかなぁ?」

翔一は、この話に乗り気じゃない素振りを、はじめのうち見せていたけれど、本当はどんな状況でもこの取引を受けるつもりだった。少ない言葉のやりとりの中ででも、細かい駆け引きをするようにしている。常に、こちら側が優位に立つという状況を、話がつく頃までに作り上げる必要がある。

なぜなら今の会話の中身全部が、立派な犯罪であり、もしも『ドジ』ってしまったら、この身から、自由が失われるということを、彼はよーく知っている。片山は、明日の居場所と時間を細かくしゃべり、話が一段落しようとしたとき「それと」と、言って再度、会話の主導権を握りなおした。

「値段のことなんだけど」

片山が、その言葉を出すまで翔一は、値段を口にしてなかったことに、気づかなかった。

「あっそうだね。今回は100グラム以上になりそうだからグラム2500円でいいよ」と言った。

これまでは、片山が自分自身で使うためのものだったようだが、今回は違う。彼は今回の取引で確実に、利益を出すように動いているのだろう、それは数量をある程度まとめてから話を振ってきたことから考えてみても間違いない。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。