第Ⅰ部 医療経営戦略

第1章 経営学とは?

本章のポイント

・経営学とは利益の追求ではなく、すべてのステークホルダーを幸福にするための手段であり、医学と同様に「人とは何か」 を探求する学問です。
・医療経営が困難な理由は病院がヒューマンサービス組織であること、多種の専門職を扱うこと、市場競争のみでなく医療制度への適応が求められる点などが挙げられます。
・病院経営には部分最適ではなく、全体最適の視点を持った医療者の養成が不可欠です。

経営の定義

経営=金儲けをイメージするので、これまで医療の現場で経営を語ることは禁句とされてきました。それではそもそも経営の定義とはなんでしょうか。会社などの営利企業の目的は株主価値の最大化であり、経営とは「資源を活用して付加価値を作り出す活動」と定義できます。

営利基準(お金儲け)が有利な点は

・営利はただ一つの基準に向けて組織全体を動員できる
・成果とコストの量的分析が可能
・多くの事象展開を一つの基準にまとめることが可能
・営利基準によって権限委譲が可能

などが挙げられます(※注)。

いわば利益(お金という単位)=シンプルな基準と言えます。一方、非営利組織である病院や行政組織、大学は利益を上げることのみがその目的でないがゆえに、運営上の指標が明確でなく、営利組織に比べると運営が難しくなります。非営利組織においては利益が多い=経営の成功とは言えないからです。

そこで、非営利組織における経営の定義としては「人を動かして構想を実現させること」とするのが相応しいと考えます。本書では経営とは「すべてのステークホルダー(stakeholder)を幸福にするための手段」と定義しようと思います。

ステークホルダーとは利害関係者の意味であり、企業で言えば株主、投資家、顧客、仕入れ先、従業員、そしてその家族、さらに大きく捉えると地域や社会全体です。