ふり返れば、つり上がった眉と、左右のととのわない、非対称な口もと。細い目には、するどく残忍な光がひそんでいる。

来たか、人売り……?

「漁門の方ですよね?」
「どうして、わかった?」

男は、屋台に彫ってある、長ひげの鯉を指さした。

「へっへ……」
抜け目ない笑顔である。

「まれに見る上物でして。はじめての卸(おろし)ですんで、お安くしておきますよ。今後のこともありますしね」

ぺらぺらよく動く口を見ていると、ふつふつと怒りが わいて来た。

「要らん!」
「……これは、いったい……おたくは……」

男は、こちらの剣幕に、目をまるくした。

「失礼ながら、ほんとうに漁覇翁(イーバーウェン)様にお仕えで?」

だまって身分証を見せた。

「へえ、たしかに、ほんものですな」
「わが一門は、人を買うほど、落ちぶれてはおらぬ。去れ」

商人は、なにやら思案げな顔をしたが、すぐにニタニタと笑みをうかべて、食い下がって来た。

「だんな、宦官といっても、日々の仕事でお忙しゅうございましょう? どうです、下女として、おそばに置かれては。掃除、洗濯、ひととおりのことは仕込んであります。お役にたつと思いますよ」

「わしには、要らん。そなた、大胆であるな。わしが刑部(けいぶ)に告げ口したら、捕縛はまちがいないのだぞ」

「まあ、そうおっしゃらずに、見るだけでも。おい」

男は、路地のさらに奥にむかって、呼びかけた。すると、雲を突かんばかりの巨漢が、ぬっ、とあらわれた。

「連れて来い」

扉のむこうから、ひとりの娘が、引きずり出されて来た。

「これなんですがね。出所は杭州(ハンジョウ)です。もとは素封家だったんですが、祖父の代に没落しましてね。前々から目をつけておったのです。どうです、そんじょそこらの婢(はしため)とは、ちがうでしょう」

娘は、顔をみせまいと、終始、視線をおとして、うつむいていた。まとっているのは、みすぼらしい襤褸(ぼろ)であり、髪もまた、梳(くしけず)られぬままに、乱れていた。しかし、そのたたずまいには、うちからにじみ出る品格が感じられた。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『花を、慕う』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。