第4章 脳梗塞の治療いろいろ

◎急性期治療と亜急性期治療

脳梗塞(脳動脈の急性閉塞)が発症した場合、少しでも後遺 症を軽くして社会生活に復帰するためには、詰まった血管を一刻でも早く確実に再開通させる治療が必要です。

現在、第一選択となっている治療法はrt-PAという点滴から投与する薬剤です。ただし、この治療法は発症後4.5時間以内に治療を開始しないといけないなど制約があることは既に述べました。

rt-PA適応のない患者さんや、rt-PAを投与したけれど効果がみられなかった患者さんの治療法として注目が集まっているのが、カテーテルによる治療法です。これについては後に外科的治療のところで述べます。

大部分の患者さんには、梗塞巣の拡大防止や再発予防を目的とした、血液をサラサラにする抗血小板・抗凝固療法、フリーラジカルスカベンジャーと呼ばれる脳細胞保護療法、脳血栓症に伴う運動障害の改善にオザグレル(商品名:カタクロット、キサンボン)、あるいは抗脳浮腫剤の投与、酸素の投与、発熱、 血圧(基本的には下げない)のコントロールといった治療が行われます。

血液をサラサラにするアスピリン!

動脈硬化のために脆くなった血管壁は、血液の圧力で傷つきやすいものです。そこへ血小板が集まり、しばしば血小板による血栓ができて、脳血栓を生じます。

そこで、脳梗塞の再発予防のために、薬を使って血小板が集まるのを抑える試みをします。これが抗血小板療法です。主に、白色血栓の多いラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞に対して有効とされます。

脳梗塞や心筋梗塞を予防するための「血液サラサラのアスピリン!」はご存じの方も多いと思います。ただし、脳梗塞の場合は、基本的に一度脳梗塞になった方の再発予防として使います。

この100年を超える長い歴史を持つ薬は、熱を下げたり、痛 みを抑えたり、血液をサラサラにしたりと幅広い効用があります。さらに最近では、癌の予防効果があるのではないかという 研究成果が発表されています。

実はこのアスピリンは、脳梗塞を発症したばかりの方への治療薬としても用いられています。前述のようにrt-PAは、詰まった血栓を溶かすことで症状を劇的に改善する薬ですが、多くの制約があります。

一方、アスピリンは、血栓を溶かして症状を劇的に改善する効果は期待できないものの、心原性脳塞栓症以外の多くの方に投与可能なため、脳梗塞急性期の治療薬として世界中で用いられています。

また、そのまま服用を継続すれば、慢性期の再発予防薬にもなるという長所もあります。一方で、胃・十二指腸潰瘍に注意する必要があり、多くの場合胃薬を併用しますが、今後も当分の間はこの安くて安全なアスピリンの活躍が約束されているといってよいと思います。