9 枇杷の功徳

梅雨入りは、一年の中でも最も鬱陶しいものだ。その中で果物は人々に爽やかさを与えてくれる。この季節にとれる果物のうち、枇杷もその一つだ。

宅にも裏庭に枇杷の木があり、実を結ぶのを毎年楽しみにしている。その枇杷はまだ私の幼い頃、到来品としていただいた枇杷の種が裏庭に芽吹いたものだ。

植物の生命力は強い。どんどん太い幹となり、ちょっと目には南洋の植物を思わせるようなたたずまいとなった。常緑樹の中でも、葉は厚く、薬効があることでよく知られる。その果実は瑞々しく甘い。

宅の枇杷は白い小さな花をつけ、暖かくなるとオレンジ色に似たツルツルとした果実がなる。これは食べられると言う人がいるので、ご親切にも取って下さった。そして、いただいた。その美味しさに、あっと驚いた! 食物用に植えたわけではないのだが……。

果物屋さんで見る枇杷の実は大きく、形がきれいに揃って、いかにも美味しそうだ。宅の枇杷の実は小さいが、皮を剝いてみると清々しい甘さと豊かな味わいが口に広がった。あまり手の加えない自然の食べ物が家の裏庭にあるとは、それまで気が付かなかった。それ以来、六月の季節が来るのが毎年毎年とても楽しみだ。

枇杷の原産は中国で、遥か六世紀頃から世界各地に広まり、食文化の一端を担っている。

かのお釈迦様は、枇杷の事を「大薬王樹」と言われ、その果実は美味しいのみならず、どんな病気でも快癒すると仰せられた。切り傷、外傷はもちろん、五臓六腑の疾病。特に葉には憂いを無くし、生きるもの全てを救う力があると言われている。

春に桜の花を早朝五時に全て平らげていったカラスの一行が再び来臨し、ちょうど食べ頃の枇杷の実を木のてっぺんからついばみ始めた。てっぺんにある実は陽もあたり美味であるのを知っているのであろう。カラスは器用で実だけ食べて地面に種を落として去っていく。

私どもがいただけるのは木の中ほど近くに生っている枇杷だ。カラスは「お釈迦様」から滋養のあるものを、有り難くも忝くも教えていただいたのだろう。

カラス曰く、「カラスの勝手でしょう、カァカァカァ」などと言っているような気がしてならない。残念なことだ!

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。