殺生を正当化するべきかの状況判断は非常に難しいため、こうした考えはグレーゾーンを生み出す。テコンドー哲学では、自分や他者の命を脅かす深刻な状況のみ、相手を殺害する必要がある事をはっきりと述べている。しかし、相手の命を奪うのは最終手段であるべきで、相手にダメージを与える事の方が先である。これは、実生活にも応用されるべきテコンドーの基本方針だ。

テコンドーは、守備を中心とする武道であり、攻撃を目的にしてはならない。この事は、 型、ステップスパーリング、先生が伝授するコンビネーションの中でよく象徴されている。実際、テコンドーの練習は防御技から始まることが多い。

さらに、身を護らなければならない状況のほとんどは、戦闘をせず避けることができる。テコンドーの生徒は、自分の存在とその周りを常に意識するよう教えられる。そうすれば、潜在的な危機を即座に察知し、回避することができるからだ。他者への思いやりと謙遜する気持ちを持てば、争いの多くは悪化する前に抑えることができる。

護身術において最も重要な側面の一つは、自分に自信を持つ事である。穏やかな心と自信を持つことができれば、被害者意識を持ったり、他人を脅威に感じたりすることもなくなる。たとえそうした意識を完全に取り除くことができなくとも、身を脅かすような状況は少なくなるだろう。

自分の心の持ちようを変えられれば、自分の身の回りに起こる全ての物事を違った見方で捉えられるようになる。低い自尊心は争いのもとである。反対に、自分への尊厳と思いやりがあれば、身の回りの物事全てに対しても威厳と思いやりを持つことができる。

時に、争いに立ち向かうよりそこから立ち去る事の方が勇気を必要とする。テコンドーの生徒は、常に平常心と威厳を保ち、くだらない揉め事から立ち去るよう教えられる。この教えによって自分を強く持ち、他の生徒に対する敬意を表す。

自信と健全な自尊心を持つことは、重要な護身術の一部であり、それに高度な技は必要ない。自分を被害者だと思わなければ、この自己イメージを相手にも投影しなくなり、実際に犠牲になることも少なくなるだろう。戦わずして済む剣が最良であることを常に覚えておく必要がある。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『人の道 伝統的テコンドーの解釈』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。