三時半に、ある路地裏で若い男と女が話していた。それを遠くで覗いていた黒服の二人組がいた。

「おいナンバー45、俺たちはあいつが例の店から出てきたところを撃つんじゃなかったのかよ。あれじゃあ、女に当たっちまうかもしれねえじゃねえか」

「すみません兄貴、なぜでしょうねえ。もうちょっと早く来ていれば……」

二人は男と女の話を聞いていた。

「……すまない。この世界は八百長だらけなんだ。僕はスーパーフェザー級ボクサーのチャンピオンになる夢をあきらめて君と一緒に故郷でひっそり暮らすよ。僕はいつ命を狙われてもおかしくない状況なんだ。今日これから出発しよう」

「私は何もいらない、あなたとだったらどこへでも行くわ、今の仕事だってすぐ辞める」

「十七時二十分発アリゾナ行列車のチケットがここに二枚ある、今直ぐこのいかれた町を去るんだ」

背の低い黒服の男は言った。

「どうします? 兄貴」
「どうするって、組織の命令は絶対だ」

そう言って背の高い黒服の男は拳銃を構えた。大きな銃声がした。

「キャー」

「……兄貴」

「ああ、俺は初めて罪のない正しい人間を撃っちまった。いや、今までも、あったかもしれねえ。このけじめはしっかりつけるぜ」

そう言って背の高い黒服の男は自分のこめかみに銃を突きつけた。二回目の銃声が聞こえた。

「兄貴……いや、ナンバー44。あんたならあの男を撃たないと思っていたんだ。だからわざとあんたの腕時計の時間をずらさせて、女との二人の会話を聞かせて、あの男が悪い人間ではないことを伝えたかったんだ。それなのに……」

そう言って背の低い男はおもむろに自分の腕時計をはずした。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『令和晩年』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。