どこに住んでいるのか、彼氏はいるのか。そして会話は次第にディープなものになっていく。

〈おっぱい、何カップなん?〉

そんな質問が投げかけられ、私は胸がぐっと熱くなるのを感じた。普段の生活では性の対象として見られていると感じたことはほとんどない。

スカートめくりもせいぜい子供の遊びだった。それがネット上とはいえ明らかに自分を女性として、性の対象として見ている人がいる。私はそれに快感を覚え、彼らの興味にできる限り応(こた)えてみせた。

これほどまでに夢中になれる楽しい遊びは他になかった。公園の遊具や、友人とのアイドルごっこでは私はもう楽しめなくなっていた。

しかし彼らの性的好奇心をある程度満たすと、最終的には連絡先を聞かれてしまい、いつもそこでこの遊びは終了となった。携帯電話は持っていたが、ネット上で知り合った相手に連絡先を教えることは子供ながらに危険と感じた。

そもそも自分は相手が求める十七歳の女子高生ではない。連絡先を聞かれれば、強制的にチャットを終了し、また別の相手を見つけては同じように性的な会話を楽しんでいた。

「チャットとかいうの、あんたもパソコンでやってるの? あれ、危ないんだって」

ある日いつものように学校から帰りパソコンを立ち上げると、祖母が画面を覗き込んで言った。どうやら近所の親同士の井戸端会議で、チャットがトピックに上がったらしい。

祖母は他の親たちより人一倍過保護で過干渉な上、女性の性に関して、昔の人ならではの、かなり古風で凝り固まった考え方をしていた。道を歩いていて肌を露出した女性を見かけただけで、「あんな自分を安売りする女にはなりなさんなよ」と私に教えた。友達の家に泊まりに行こうとした時も、その友達に兄がいれば危ないからと泊まりに行くのを許さなかった。

そんな祖母は機械には疎かった。私がパソコンに夢中でも、ゲームでもやっているのかと思ってさほど気にしていなかったようだ。チャットの存在も井戸端会議で初めて知ったようだが、世界中の見知らぬ誰かと会話をするというシステム自体を、よく分かっていないようだった。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『不倫の何がいけないの?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。