「待ってよお母さん、先生はただ説明義務として言っただけで、万一のミスや事故さえなければ何も怖がることはないんだよ。それに、脳自体には痛覚が無いっていうらしいし……」

「私は“ミス”とは言っていません。誰がやっても一定確率で起きうる事なので、ミスではないです。いずれにしても、嫌だという人に無理矢理やるわけにいきませんので、これ以上は患者さんご本人の問題です。あとは、薬物療法か放射線という手はありますが、身体の方のガンもあることですし、ご年齢と体力面から考えれば、両方同時に治療していくのはまず無理でしょう。そうなると、積極的な治療を一切行わず、支持療法(緩和ケア)だけということになります。つまり、病気の進行は止められませんが、他にしようがありませんね」

「今の段階のままで、原発の見当をつけて治療という事は不可能なんでしょうか」

「それだと、Aという状況なのに、Bという治療を行ってしまうかもしれないというリスクがあり、放射線障害の可能性が出てきます。病気以上に、放射線自体の毒におかされ、治療とか改善という以前の問題になるわけです。選んだ方法が正しいかどうかは、言ってみれば賭けのようなもので、もしうまくいったとしても、そう長くはないでしょう」

やけにキッパリと言いやがる……。私はだんだん腹が立ってきた。その時、母が堪りかねたように語気を荒げた。

「手術も放射線もいらない。いいか、人の身体、ちっとでも傷つけたら許さないよ。いくらお医者さんでも息子でも、わたしは恨むからね……」

そう言ったきり、口を真一文字に固く閉じ、苛立ちを顔全面に表した。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『ありがとうをもう一度』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。