優子は驚いて、コーヒーカップを落としそうになり、気をつけてカップを皿に戻した。

「向こうで、警察にも、貴女の婚約者だと言いました。お母さんには、もうお許しを頂いています。結婚しましょう。僕は、優子さんを愛しています」
「……私のどこがいいんですか?」

優子はうつろな目で聞いた。

「初めて会った時、こんな美しい人はいないと思いました。それから、デートで話してみたら、貴女は花が大好きで、本当に純粋な女性だと強く惹かれました。優子さん。貴女を幸せにしたい。僕と結婚して下さい」

入江は真剣だった。初対面の時から、優子と結婚したいという気持ちを胸に秘めていたのだ。

「入江さん。……ごめんなさい。私、貴方を愛しているのかどうか、わからないわ」と、優子は正直に答えた。

「今すぐ返事をくれなくてもいいです。考えて、近いうちに返事を下さい」

入江は、その理知的な顔にかけているメガネを手で直した。

「それから、優子さん。病院に行って下さい。医者から、こっちに帰ったら心療内科にかかるようにと、紹介状を預かっています」と言って、封筒を優子に渡した。「色々ありがとうございました」と言い、優子は頭をさげた。

「じゃぁ、帰ったら、ゆっくり休んで下さいね。返事を待っています」

二人は立ちあがり、入江が精算をして、店を出た。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。