くも膜下出血後の脳障害・脳血管れん縮・脳梗塞

脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)(図1、2)を起こしたときに、発症数日~ 2週間後に遅発性虚血性神経脱落症状(delayed ischemic neurologic deficits:DIND)や遅発性脳虚血(delayed cerebral ischemia:DCI)が起こり、脳障害(delayed brain injury:DBI)がかなり高頻度に起こります。

[図1]くも膜下出血(破裂動脈瘤)の拡散強調画像(上図)。30代後半男性。くも膜下出血(破 裂動脈瘤)で発症。術後神経症状なく経過していた。7日目にTCDの著明な上昇が認められたが症状なく経過観察とした。8日目に感覚性失語症が出現し拡散強調画像で梗塞を認めた。塩酸ファスジル(fasudil hydochroride)動脈内投与(下左図: 投与前、下右図:投与後)を行い、症状は増悪せずに軽度の感覚性失語を残した

脳障害を来す原因は、血管側の要因として脳血管れん縮(攣縮)(cerbral vasospasm)があり、脳側の要因として早期脳損傷(early brain injury:EBI)、大脳皮質拡延性抑制(cortical spreading depolarization/depression:CSD)があります。

血管れん縮とは、動脈瘤破裂部位を含めてその近位部および遠位部の動脈径が細くなることです。動脈径はやがては元通りに拡がるのですが、細くなっている期間が長いと脳梗塞を来すことになります。脳動脈瘤の手術自体は成功したのに、のちに脳梗塞を来して重篤な後遺症を来したり、死亡したりすることも決して稀ではありません。

症状を呈する遅発性の症候性血管れん縮の発生頻度は約40%(神経症状を呈さない、すなわち軽い血管れん縮は全例に起こると考えられています)で、そのうちの約80%までがくも膜下出血後3週以内に起こり、破裂脳動脈瘤の予後を左右する重要な因子です。血管れん縮の程度と広がりは、くも膜下出血の程度と相関し、出血がひどいほど血管れん縮は強く、また、広範囲に起こります。

脳血管れん縮自体や、それを含む様々の要因によって起こる脳障害に対する予防や治療は、血圧(昇圧)・栄養・血糖・電解質調整を含む全身管理、薬剤(塩酸ファスジル、シロスタゾール、エダラボン、オザグレルなど)投与などです。

[図2]30代後半男性の脳血管撮影像。くも膜下出血(原因不明)で発症。脳梗塞を来すことなく軽快退院した。脳血管写像:左中大脳動脈系の血管れん縮を起こしたとき(左図)、血管れん縮が元通りに拡がったとき(右図)