第一章 出逢い ~青い春~

優子は病室で目を覚ました。

「優子さん!? 気がつきましたか?」

入江が優子の顔を覗き込んだ。

「えっ? ここは? どうして貴方が?」

優子は救急病院へ運ばれ、警官が家へ連絡したところ、母が入江に頼み、彼が駆けつけて来てくれたのだった。

「大丈夫。大丈夫ですよ」と、入江は優子をなだめた。
「ウソ! ウソよ! お父さん! ハァーッ! ハァッ! ハァッ! ハァーーー!!」と、また優子の息づかいが荒くなった。

入江はナースコールのボタンを押した。看護師が来て、優子を起こし、背中をさすった。そうしながら院内電話で医者に連絡をした。

看護師は出て行き、また戻って来て、優子の細い腕に安定剤の注射を打った。二十分ほどして、優子はまた気を失った。優子は食事もとれず、栄養剤の点滴を受けていた。

夜中に起きて、激しく泣いた。看護師がまた安定剤の注射を打った。優子は疲れきっていた。

絶望し、心はうつろだった。担当の医者は、今の優子には判断能力がなく、三日は安静が必要だと、入江に伝えた。

警察での煩雑な手続きは、入江が済ませた。警察も、入江が優子の婚約者だと言ったので、全てを任せた。

達雄は享年五十三歳で荼毘に付され、その骨壺を抱いて、三日後の夕方、優子は入江に付き添われ、家に帰った。その間、優子は誰とも一言も口をきかなかった。

入江とは家の前で別れた。真弓は寝込んでしまっていた。

優子は、魂のぬけ殻のような状態のまま、床の間へ入り、仏壇の中に父の骨壺を置いた。「お父さん……」と、優子はつぶやき、崩れるように横になった。

もう涙も出なかった。優子は、目を見開いたままピクリともせず、そこで夜を明かした。

朝になって、優子の携帯電話が鳴った。入江からだった。着信音が長く鳴り続け、優子はやっと通話ボタンを押した。

「優子さん? 大丈夫ですか? 眠れましたか? 朝食、食べられましたか?」
「……色々すみませんでした」
「僕、そこまで来ているんです。駅前の、いつもの喫茶店に来られませんか?」
「……」
「待っています。待っていますから、来て下さいね」
「……ありがとうございます」

優子は電話を切った。重い体を起こし、寝室へ母を見に行くと、真弓はまだ寝ていた。

洗面所へ行って、鏡に映った無表情な自分を、他人を見るように見つめた。バレッタをはずし、髪をブラシでといた。化粧直しもせず、そのまま玄関を出た。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。