なぜ、外のネズミはパンを食べなかったのか?

以下がこの観察についての私なりの推理である。

まず、箱の中の食糧が安全に手に入れられるかどうかを確認するために親が入った。外の個体はその成り行きを見つつ、親が口元からパンの匂いをまき散らしながら出てくるのをただひたすら待ってたのだ。しかしなかなか出てこない。出てくるまでは安全が確認されたとはいえないので、入ることができない。それがルールだ。そのうち、中にあるパンをちぎっては外に撒き始めた。こんな状況はめったにあるものではない。

しかし、食料を食べるには厳しいルールがあって、我先に食べてはいけないことになっているのではないだろうか。そもそも、このパンのかけらを食べる権利は誰にあるのか? 

外にいるネズミたちはお互いの顔を交互に見たのだが、誰も手を付けようとしない。食料に関するルールについて最も厳格であるはずの親が目の前にいて、どうやら、ひどく怒っている様子だからだ。

その親が、心配そうに見守っている外の子たちにパンのかけらを投げつけてくる。予想もしなかったことに、子たちは混乱しきっているというところか? 

中の親は、怪しい箱の危険性を伝達する方法を考えるが、他に思いつかない。そのままただ、ひたすらパンのかけらを外に投げ続けて、2日目の朝を迎えたのではないだろうか。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。