時間をかけて子ネズミを2匹捕獲した例がもう1例あるが、すぐに成果が出ないのでは満足いく結果とはいえない。仕掛けとしてのアイデアは面白いのだが、すぐに捕獲できる場合とできない場合の違いが分からない。

B 大がかりな仕掛けを使った捕獲例

その後、複数匹捕獲の仕掛けを何種類も作ってみた。そのうち、すぐに餌付けができて、とても大きい個体が真っ先に捕獲された例が2例ある。2例に共通しているのは、周囲にとても多くの個体がいるであろうと期待して設置した現場で、そのどちらもが、続けて他の個体が入ることはなかった。複数匹捕獲の仕掛けとしては失敗例なのだが、でかい個体がまず捕獲されたことの不思議さもあって、何故だろうと考え出すと、なかなか頭から離れない観察例である。その2例を紹介する。

実施例1 山間の渓流沿いにある鶏舎

大きな鶏舎の建物が3つあって、そのうち目撃例の最も多い鶏舎の入り口に設置した。四国松山に出張しての試験ということもあって、餌付けを行わず、いきなりロックモードにして2日後に1人で点検に行った。実は、餌付けをしなかったのにはもう1つ理由がある。それまでに行った失敗例と関係が深いので、失敗例とその失敗例に用いた仕掛けの構造から説明をしよう。

捕獲具は2階建ての構造で、前述の自動ドアの仕掛けを応用した。捕獲されたネズミはまず、入ったところから出ようとする。出ようとした時、アルミ板が下がっていて出ることができないので下りてきたアルミ板の斜面を登って外に出ようとする。そして登っていけば仕切られた上の空間に移動することができる。

しかし、上の空間への移動の際に、水平に取り付けた小さい鉄の金属板を押し上げて移動することになるので、金属板が 下りてしまうと元には戻れない。1つの仕掛けの中に一方通行のドアが2つあることになる。続けて入れば複数匹捕獲できると考えた。

しかし、続けて入ってくる個体がいると、その時に、上の一方通行のドア、つまり、出ようとしている個体の目の前で水平な金属板が開いてしまう。実際、松山にあるお寺でテストを行った際には、共同作業を行って2階に置いてあった食パン1枚がきれいに食べられる結果になった。

パンくずが落ちていたので複数匹が2階の部屋に入っていたと思っている。どのようにして最後の1匹が2つの一方通行のドアを攻略して外に出たのかが分からなかった。協力しないと脱出不可能な構造だ。クマネズミ恐るべしである。

少し工夫を加えても、やはり1枚の食パンを献上する結果になってしまった。協力すれば安全に出ることができると学習して当然のようにパンを食べている。腹立たしいことこの上ない。

2回目の試みではパンの食べ残しがあったので、複数匹のネズミが上の部屋に入って仲良くパンを食べていたことは間違いない。一方通行のドアとして上の階に水平に取り付けたドアの大きさは5㎝四方で、すれ違って移動できる大きさではない。

1匹しか通れないように工夫してあったのだが、上と下にある一方通行の金属板を連係プレイで通り抜けて難なく出られてしまった。

餌付けを行ったことによって複数匹が入って食べるようになったのは良いのだが、学習されて次々に入り、突破されたのではたまったものではない。

そこで、2階に上がったネズミがすぐさま別のところに移動してくれれば連係プレイはできないと考え、塩ビの排水管を利用して仕掛けの外に移動させれば良いと考えた。

20リットル入りのポリタンクを仕掛けの横に並べて置き、塩ビの通路を作って、ポリタンクの口に排水管を差し込んだ。ポリタンクに入った個体が元いた部屋に戻れないように、差し込んだ口の先を短くもした。出口であると認識すれば飛び降りるかもしれないと思ったからだ。

ポリタンクの中にネズミの匂いのするぼろ切れと新聞紙を入れてみたのは、誘因効果を期待してのことだ。仕掛けの中にある塩ビのパイプの口は中空の位置にあり、是非、進んで入って欲しいと願って、伝って登れるよう紐までぶら下げた。親切設計だ。そして、学習されては困るので、これは餌付けをしないで使ってみることにした。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。