Chapter1 天変地異

群馬県は縄文時代の遺跡が多数点在しており、大きな観光資源となっている。嬬恋村も例外ではない。笹見平「縄文の家」に再現されている三つの竪穴式住居も、それにあやかって造られたものだ。

キャンプ場はこれをコテージとして利用者に貸し出している。上々の人気である。竪穴式住居の中はかなり広い。十五人くらいは優に横になれる。

明かりは出入口と屋根裏の隙間からの外光のみ。夜は中央の囲炉裏に火を入れることができる。真っ暗な中で火を囲むと、まるで本当に縄文人になったような気分を味わえる。

ボランティアサークルのキャンプは毎回竪穴式住居をレンタルした。ここに泊まれることも、キャンプのひとつの目玉だった。

竪穴式住居のすぐそばにある観光案内所の建物には、こぢんまりとした売店コーナーがあった。ジュースやちょっとしたお菓子があるだけで、レストランや弁当の仕出しはない。あとは村役場の事務用品の保管庫となっている。

もっとも、そんなものがあったとしても、ボランティアサークルのキャンプでは使用せず、主旨に則り全員協力しての自炊である。食材はサークルが持ち込んだ物と、キャンプ中に組み込まれたプログラム――近隣農家に依頼した収穫体験のお裾分け――で賄う。地元が協力的で、ジャガイモとキャベツの収穫体験をさせてくれる農家は、当座の食材だけでなくお土産分まで用意してくれる。

自炊は縄文時代さながら火起こしから行う。現代的な調理器具はほぼ用いず、石皿・石包丁・石匙を使う。キャンプ初日の午前中はマイ箸づくり講習が行われる。しっかり作らないと、キャンプ中はずっとその箸で食事をすることになる。

これらは全てキャンプ前に大学生が観光NPOからレクチャーを受けておいて、当日中学生に教える。箸づくり講習は中学生と大学生の最初の密なコミュニケーションになる。

ちなみに観光NPOは、遺跡巡りの案内役を無償で行ってくれるありがたい存在だった。発掘土器や地質の説明、縄文・弥生時代の解説等々、分かりやすく教えてくれる。しかも担当者は笹見平付近に在住の方で、キャンプ中に緊急事態があった時に頼れる存在である(もっとも、これまでそんなことは一度も起きていない)。