7 春の感動

あっという間に五月の連休が過ぎ、早くも初夏の近づきを感じさせる。この時期は木々が生い茂り、ツツジの花が咲きほころぶ、とても過ごしやすい季節だ。身も心も軽やかに……。

この時期に咲く花、中でも私はクレマチスが大好きだ。日本では〝鉄線(てっせん)〟という名でも親しまれている。弦(つる)が丈夫なためにこのように呼ばれているようだ。弦は上へ上へ伸び、つぼみから花を咲かせる。

クレマチスは高貴な薄紫の色で私には何かしら穏やかな気持ちにさせてくれるのだ。やがて時が経つと花はしおれ、枯れてしまう姿を見ると名残惜しい……。来年もまた同じように楽しませてくれるのだと思うと、さみしさも少なからず薄れるようだ。寒い冬の日々を過ごしたからこそ、春の花の咲く姿は、喜びを与えてくれる……。

日本の隣の国、ロシアの冬は長い。春の待ち遠しさはロシアの人々にとって、ひとしおなものだろう。

ロシアの詩人、アレクサンドル・プーシキンは、凍てつく冬の寒さ、そしてその中での四季の移り変わりを美しい文章で表した。彼の詩の中には、自身に内在する豊かな言葉が、さながら宝石のように散りばめられている。プーシキンの残したその作品は、ロシアのトゥルゲーネフやドストエフスキー、中でも私の最も尊敬するトルストイの人と作品に深い影響を与えたと言われている。

プーシキンの作品は人々にもよく親しまれ、彼の詩は、春の川辺で人々が集い声に出して吟じられる。彼は詩だけでなく、小説や戯曲の名作をも書き残した。彼の作品は、美しい歌劇となり今でも上演され続け世界で親しまれている、ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』、そしてかのチャイコフスキーの『スペードの女王』などだ。

能楽の謡曲。その中に綴られた詞章の深さ。能の囃子の美しい演奏は、プーシキンの歌劇に相通じるものを感じる。踊るような旋律、詞章の美しさ、そして深い意味、まさに観客に伝えるものは同じ感動といっていいだろう。

それは、人間の高い理想とする心の内なのだから……。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。