「そうよ。お父さんは、お母さんの初恋の人だった。貴方もそうだったって言ってくれたわよね」と、真弓は達雄を見た。

「よさないか。昔の話じゃないか」と、達雄は照れた。

「お父さんは毎日のように、ラブレターをくれたのよ。一緒に映画を観て、同じシーンで一緒に泣いて、あぁ、私達は二人で一つなんだって思ったわ。お互い大学を出てすぐに結婚をして、三年後に貴女を授かった。……うれしかったわ」と、真弓は幸せそうな顔をした。

「あぁ」と、達雄も幸せそうに遠い目をした。

達雄と真弓は、絵に描いたような美男美女の夫婦だった。優子は、幼い頃、両親の結婚写真を見せてもらい、あまりに綺麗なので「ゆうこにちょうだい!」とせがんで、とうとうもらってしまい、毎日、開いて見ては憧れていた。スラッと背の高い達雄のモーニング姿は凛々しく、その横に寄り添って立っている真弓は、角隠しも似合い、うりざね顔に大きな瞳が美しく、赤と金の豪華な色打ち掛け姿は、お姫様のようだった。優子はシンデレラの絵本と同じくらい、両親の結婚写真を見るのが好きだった。その写真は、今でも優子の机の引き出しの中にしまってある。

達雄は、娘の気持ちを確かめたくて、再び強い口調で言った。

「優子。早く幸せになるんだぞ。彼と結婚して、母さんを大事にしてくれ」

優子は父の気迫におされ、また少しだが頷いた。それを見て、達雄はうれしそうに笑った。優子もはにかみながら微笑んだ。

「あぁ、良かった。お母さん、これで安心したわ。今夜は最高の気分だわ」と、真弓は笑った。

「本当に、今夜は最高だ」と、達雄も愉快そうに笑った。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。