ステップスパーリングは、両者の関係を築く上で大きな役割を果たす。彼らのテクニックはコミュニケーションの手段となり、互いの信頼と理解の程度を表す指標となるだろう。信頼できる相手と繰り返し練習することで、受け方や技術力を互いに理解し合い、かなりの至近距離で技を実践できるようになる。

相手の技術力を深く理解すれば、それだけステップスパーリングのパートナーとしても信頼できるはずである。それができれば、攻め手は尻込みをしたり、過敏に防御的な構えをしたりしなくなるだろう。また受け手は、近距離でも安全に技を実践できるようになるはずだ。

コンスタントに練習を続ければ、攻め手の体と受け手の手足の距離がぐっと縮むようになる。このような関係性を築くには、動き一つひとつに対して全神経を集中させなければならない。不注意だったり、技の正確性に欠けたりした場合には、自分だけでなく相手にも怪我のリスクを負わすことになる。

ステップスパーリングの練習では、自身の技術を適切に評価し、また練習相手との距離感は十分に安全であるかを客観的に見直す必要がある。定期的に自身の技術を内省し、正確な自己評価を行うのだ。自分の技術を過大評価すると、相手に怪我を負わせてしまうかもしれない。一方で過小評価してしまうと、技の進歩が見られず行き詰まってしまう。

本質的に、ステップスパーリングは、技術、正確性、動作のスムーズさ、空間認識能力、自制心、タイミング、現象に素早く対応する能力、コーディネーション能力、間の取り方、創造力などを身につける方法である。

しかしもっと深い意味において、ステップスパーリングは、相手を傷つける事なく目標を達成する事を象徴的に表している。一歩引いて相手と距離を取ってみると、物事を違う視点から見ることができるだろう。この象徴主義は、道場外で日常生活に使われるべき人生の教訓である。

またステップスパーリングは、所定の枠組みの中で、自分自身を表現し、能力や知識を最大限にまで引き出す方法を学ぶ場でもある。一方で、自制心を養う上でも大切な練習と言えよう。この練習は、フリースパーリングの先駆けともなる。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『人の道 伝統的テコンドーの解釈』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。