一方、このような状況下でも心臓の拍動する能力になお余力があった場合には、全く違った結果を生じます。すなわち、血行末端の酸素欠乏部位から中枢(脳)に対して発せられる、「酸素をもっと送ってくれ!」という酸素供給を促す神経刺激に従って、心臓はより一層頑張って力強く拍動 しようとし、極めて強く血管収縮の起こっている状態にあるところに無理矢理血液を送り込もうとします。

そして、そのような状況下においてさえ心臓の拍動ができた場合には、血圧値の異常なほどの上昇が発生するのです。したがって、このようなメカニズムにより、測定不能なほどの超高血圧が発生すると推論できます。そして、このような事態が生じた際には、全身の血管系の中でも超高血圧に対して特に脆弱な、特異な血管構造を持つ部位である脳の細動脈血管にまずは破綻が生じることになると考えられます。

脳の細動脈は、非常に細くて長く、かつ、血管壁が薄い血管です。脳は体内で最もエネルギー消費(酸素消費)の盛んな組織であるため、脳へ高度な酸素供給をする必要上、脳の細動脈の血管壁は他部位よりもとりわけ薄くなっているのです。したがって、このような部位に超高血圧が負荷された場合、その圧の逃げ場がなくなって、血管壁が破綻を来しやすいのです。

なお、このような超高血圧が脳の細動脈血管以外の部位の血管の破綻原因となることもあり得ます。例えば、「大動脈乖離(かいり) 」などと呼ばれるものがそれです。体内のどの部位に破綻を来すかは、その患者が過去に罹患した病気による血管の傷害や、また、個々人の高度に動脈硬化が進んでいる血管部位の違いによって異なってくるのです。

測定不能なほどの超高血圧が発生した際に、体内のより脆弱な血管部位がたまたま大動脈であると、その部位の破綻が生じるのです。なお、“乖離”とは、何層かの筋肉の層からなる大動脈血管が、その筋肉の層が剝がれるような形で裂けて破れることです。このような形で血管の破壊が生じるということは、よほどの超高血圧がここに集中的に加わった結果だと推察されます。

これらの判断を裏付ける根拠は、以下に示すデータから得られています。心臓の血液拍出能力の高い健康な犬にタンパク性アミン類をごく少量静脈注射すると、そのアミンの作用による強力な血管収縮が生じます。そして、この場合には、ここに至ってもなお心臓が力強く血液を拍出することができるため、非常な高血圧状態が発生することになります。

そこで、さらに続けて量を増してタンパク性アミン類の静脈注射を行うと、脳卒中死あるいは高血圧症死という病型での死がこの犬に訪れるのです。一方、心臓の衰弱している病人に対して同様の処置を行った場合には、さらなる心臓衰弱の発生を示す不整脈、動悸、心悸亢進、速脈、低血圧など、上記した健康な犬の場合とほとんど正反対と言っても過言ではない意味合いの諸症状が発現するのです。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『殺人うんこ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。