第1部 捕獲具開発

3章 仕掛けとその効果

4 餌付け機能を備えた1匹取りの仕掛け

B 捕獲例2 クマネズミの場合

実施例2 グループホームの場合(集団脱走)

観察記録

回収する前の様子を再現した(写真1)。中上、中下の捕獲具が、引き出されていた。その隣りが回収した6台の写真である(写真2)。手前の3台が下で、奥が上に乗せてあった3台。右上の1台は入口が開いていて中のパンが食べられていた。残り5台は入口が閉まっているのに捕獲されていない。5台のうち、左上、中上、右下の3台には、毛が多く落ちているのが確認できた。

[写真1]3台ずつ2段、合計6台設置した捕獲具の回収前を再現したところ

[写真2]回収した6台の捕獲具

左上の1台を詳しく見てみた。プラスチックの踏み板の片側出口付近に広く血が付いていて(写真3)、外側の、中の個体が触れられない部分にも血が付いていた。血の付いた場所とは反対側にあるL字金具の一部が下方向に曲げられ、変形していて、設置した時とは異なった位置に、後で差し込まれたように収まっていた(写真4)。

[写真3]囲み部分に血が付着していた

[写真4]囲み部分では、L字金具の一部が下方向に曲げられて変形していた

中上のプラスチックの踏み板は奥に押し込まれ、中から触れられないところに血が付いていた。右下の1台が最も荒らされていた(写真5)。最も弱い部分だとはいえ、厚さ0.5㎜の鉄板の装着部分が2本とも異なった方向に曲げられていたのだ。金属板全体が持ち上げられ、傾いていて設置当初の位置にない。しかも、血が内側にも外側にもあちこちに付いている。

[写真5]最も荒らされていた右下の1台

構造的に入口のバネを押し上げて30度ほど傾けた時に初めて外から触れられるところにも血が付いていた(写真6)。

[写真6]囲んでいる部分が、曲げられて変形していたL字金具の一部

この箇所は中から触れることはできない。1台は仕掛けがうまく作動せずに逃げたのだろうが、あとの5台は一旦捕獲されたがすべてバネを押し上げて逃げられたことになる。ドブネズミでは、体だけで仕掛けの3分の2ほどの大きさのでかい個体が窮屈そうに捕まっている(写真7)のを見たばかりなので、逃げられるとは思っていなかった。

[写真7]体重300gのドブネズミ

ドブネズミの場合と古民家のクマネズミの場合では毛が落ちていなかったので、捕まったネズミはおとなしくしていたと思われるのだが、今回の場合毛を多く落としている個体ほど、より脱出に苦労して捕獲具の中で暴れまわっていたことになる。

左上の個体と右下の個体は口元を怪我して血を流していた。特に、右下の個体は怪我をした後に相当暴れまわっていたことが、あちこちに付いた血痕から想像できる(写真8)。

[写真8]あちこちに血痕が付いているため、相当暴れたと思われる個体

そして、口から血を流してまで、中の個体を助けようとしていた個体がこの捕獲具の外にいた事になる。外側に血が付いていた左上、中上の捕獲具は両方とも上の段にある。口元を怪我した個体が登って捕獲具にしがみつき、脱出の手助けをしていたことが分かり、驚くほかない。

見事にすべての個体が揃って脱出した状況をどう解釈すれば良いのであろうか。それぞれの個体が単独で行動しているのならこのようなことは起きない。捕まった個体のうちの1匹が運よく脱出できたとしても、一刻も早くこの危険な場所を離れようとするはずである。口元から血を流してまでその場に居続け、仲間を助けようとしたのだ。

ネズミがこのような行動を行っていることを誰が信じるだろうか。私はとても興奮し、できるだけ多くのことを記録しようと沢山の写真を残した。今もその多くの写真を元に、脱出方法を知るための手掛かりを探している。どのようにして出ることができたのか。そして、外にいる個体はどのように怪我をして出血したのか。

外からしか触れられないところに血痕がついていなければ、単に脱走した失敗例としてしか処理されなかったは ずである。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。