第二章 健康志向と健康商品のウソ

無理は負のスパイラルを生む

テレビなどで紹介している健康法にも、悪知識がまん延している。一番の典型とされるのが、ウォーキングで「一日1万歩を目指そう」や「1時間の早歩き」。老人に若者と同じようなことをさせようとするなんて、全くありえない。

統計では、健康な年代で且(か)つ働いている人の一日の歩数がだいたい1万歩。しかも、これは都会に住んでいる人で、歩き方も田舎の人に比べると、とても速い。都会の健康人が一日かけてやっと1万歩なのを、「朝から1万歩」「1時間歩こう」と張り切っている人の中には、朝起きて無理に歩いて疲れ、本格的に昼寝をする人も結構いる。

すると夕方、元気になってまた歩く。人間の体は、体温が上がると朝のスイッチが入る。夕方にスイッチを入れてしまうと、夜中は昼。夜に運動をする人は不眠症になりがちで、そして病院に行って薬をもらう。負のスパイラルだ。生活のリズムがむちゃくちゃに乱れる。ウォーキングするなら、朝の15分から最長30分程度。30分以上歩くと、ろくなことがない。

ブームに騙(だま)されるな

ブームもある程度浸透すると、当初、強調していたことと話が変わってきている。例えば、ウォーキングは「1万歩」や「1時間の早歩き」なんてのを推奨していた。最近はテレビでも「5、6千歩」なんて言い始めているが、 少し考えれば分かること。一日1万歩なんて普通の人には無理だ。ましてや早歩きなんて、年寄りにはケガを引き寄せる要因になる。治療において、健康自慢の人やスポーツ選手の健康法を指導することは愚の骨頂。

サポーターは個々に合ったものを

サポーター選びにも注意が必要だ。特に、スポーツ用サポーターと治療用サポーターでは、目的や効果が真逆の設定になっているものもある。治療用サポーターというのは動きに制限をかけ、膝(ひざ)とか肘(ひじ)とか、痛む箇所が簡単に曲がらないよう動きを邪魔する。痛いところを動かないようにするのが一般的だ。

ところが、今、テレビなんかで販売されているサポーターの中には、ストレッチ機能を持つ、いかにも曲げやすく作られているものがある。「手当て」という表現があるが、痛む場所に手を当てると、痛みが引いているという感覚になる。湿布などにも同じようなことがいえて、痛いところに何か当たっているだけで、痛みが緩和されて治ったような気になる。本当は治っていないのに、痛みを少し抑えて動きやすくなると、それまで痛がって用心していた人が、そうしたサポーターを着けることで痛かったところを動かし、それで改善に向かうというメリットもある。

ただし、人によっては、動かさなくていいものを動かし過ぎて、悪化する人もいる。個人によって違いがあるのだ。値段の高いサポーターが、いいサポーターと思い込んでいる人も多いが、正解ではない。その症状、個人に合ったサポーターを選ばなければいけない。

サポーターは楽だけど

サポーターを着けておくと、「楽だ」「気持ちがいい」と言う人もいる。でも、着けっぱなしの状態は良くない。スポーツ用のサポーターを着けている年寄りを見ることが多いが、スポーツ用は部位を伸ばすんじゃなくて、曲げるほうに力が働く。だから、これを着けた年寄りは、膝を曲げたまま、そのまま歩いてしまう。歩きやすいけど、膝が伸びなくなる。悪い格好でも歩ける道具に成り下がっているのだ。治療して治すという考えじゃなく、ただ単に楽にするという選択をしている。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『治療の痛みは喜びの涙 ある整形外科医の言いたい放題』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。