第1章 脳梗塞とはどのような病気か?

脳梗塞をよりよく理解するための基礎知識

◎脳の各部位と機能

脳のどの部位が傷害されるかによって出現する神経症状が異なります。医師は問診、症状、神経学的診察によって梗塞の部位を推測し、画像検査などで確定診断をします。それぞれの機能についてまとめると次のようになります。

前頭葉:思考、意欲、情動、創造、言語、運動、性格、精神

頭頂葉:感覚(触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚)

側頭葉:言語、聴覚、視野、精神 後頭葉:視覚、視野

下垂体・視床下部:内分泌(ホルモン)

小脳:平衡感覚、運動円滑

脳幹:生命中枢、運動・感覚神経路

大脳辺縁系、間脳、視床、他:大脳皮質と脳幹の移行部で、脳梁、帯状回、間脳(視床、視床下部)、乳頭体、海馬などを含む。

脳を栄養する動脈は、左右の総頸動脈(common carotid artery:CCA)と左右の椎骨動脈(vertebral artery:VA)の合計4本です。

左右の総頸動脈は頸部でそれぞれ内頸動脈(internal carotid artery:ICA)と外頸動脈(external carotid artery:ECA)に分かれます。椎骨動脈は頭蓋内で左右が合流し1本の脳底動脈(basilar artery:BA)となります(図1参照)。

[図1]鎖骨下動脈盗血症候群を来す機序を示す模式図

内頸動脈系は前方循環(anterior circulation)と後方循環 (posterior circulation)に分かれます。前方循環は、内頸動脈が中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)と前大脳動脈 (anterior cerebral artery:ACA)に分かれ、大脳、間脳など広い範囲を栄養します。

後方循環は後大脳動脈(posterior cerebral artery:PCA)が主として後頭葉を栄養します。椎骨・脳底動脈は脳幹、小脳、間脳、後頭葉を栄養します。

脳梗塞では、どの血管に閉塞が生じたかによって、梗塞の部位や範囲が決まってきます。一側の内頸動脈や中大脳動脈の閉塞では対側の片麻痺、優位半球では運動・感覚失語、前大脳動脈では対側の下肢の片麻痺、後大脳動脈では対側の同名半盲、小脳ではめまいや平衡障害と対側あるいは同側の運動失調、脳幹では意識障害などです。

脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の可能性を強く疑うべき症状は下記です。症状を見逃さずに素早く救急車などで受診しましょう。

・片方の手足、顔半分の麻痺
・しびれが起こる。
・力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラする。
・ 経験したことがない激しい頭痛がする(くも膜下出血の場合)。
・ ろれつが回らない、言葉が出ない、他人のいうことが理解できない。
・ 片方の目が見えない。物が2つに見える、視野の半分が消える。
・意識状態が悪い(重症の脳卒中)。

[図2]脳の表面図と断面図

◎脳卒中と脳血管障害

脳卒中(cerebral apoplexy or stroke)という言葉は“なんらかの原因により脳血管系に異常を来し、突然、意識障害、半身不随その他神経学的異常を来した状態”であり、卒然として中(あた)る、という意味合いで、脳血管障害の急性型(acute form ※ “brain attack”ということもあります)のことです。

脳血管障害(cerebrovascular disorders)や脳血管疾患(cerebrovascular diseases)には、脳出血、脳梗塞(脳血栓や脳塞栓)、くも膜下 出血他があります(図2)。ひろく脳血管障害という場合は、これら脳卒中およびその後遺症のみならず、脳動脈硬化症、脳血管性認知症、高血圧性脳症など慢性(3カ月以上)に経過するものも含まれます。

[図3]脳卒中の鑑別診断

本書は「脳卒中」全体ではなく、「脳梗塞」中心の書籍です。 頭蓋内出血(くも膜下出血と脳内出血)や脳動静脈奇形、もやもや病なども重要な疾患ですが、(付録)として巻末に簡単に紹介するに留めました。

※本記事は、2020年1月刊行の書籍『脳梗塞に負けないために 知っておきたい、予防と治療法 』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。