第一章 全ては人間の進化と重力から

「猿手」とは?

手でいうと、グーを握るだけで、その人の姿勢のパターンが分かる。例えば「猿手」。手を握ったとき、私たちの指は図(人間の手)のようにならないとダメだ。握ると中指の上に親指がくる。猿手の状態を放置しておくと、いずれ壊れる。実は、猿手も姿勢が関わっているという話。姿勢がいいと人間の手になるし、悪いと猿の手になってしまう。

[図1]手の握り方にも姿勢が関わっている

いい姿勢は「蹲踞の姿勢」から

足を揃えて座るような行儀のいい人は、姿勢が悪いということになる。足を揃えると、人は必ずどこかが曲がるか、ねじれるかで横座りになる。私が思う一番いい姿勢とは「蹲踞(そんきょ)の姿勢」だ。

蹲踞というのは、日本に古くから伝わる文化でもある相撲や剣道などの試合前に、対戦する相手と仕切り線を挟んでしゃがみ、向かい合う姿勢のことだ。重心を下げ、脚を「グッ」と開いて腰を「ピッ」と伸ばす。これだけで体は楽になる。

肩こりなんかは、この姿勢を取るだけで治療は終わる。

解説をすると、蹲踞の姿勢は頭が体の真上に乗っかっているから、首の筋肉を使っていない。若い女性には勧めにくいが、ばあちゃんたちにはズボンを穿(は)かせて「股(また)を開け」と、蹲踞の姿勢を取らせる。股(こ)関節は結構硬くなっ ていることが多く、股を開かせることで背筋が伸びるなどの効果が出る。

蹲踞の姿勢で、手を使わずにゆっくり立つ練習をすることは、年寄りにも現代の子どもたちにも必要なことだ。

[図2]蹲踞(そんきょ)の姿勢

治療は進化形を目指す

一般的な治療というのは、「目の前にある症状を治療するもの」と考えられている。しかし、私は、「過去から現在、そして未来を治せ」と主張したい。人間の体や骨は、これからさらに進化したら、どんな形態になるだろう? その進化形を目指して治療するのが私のポリシーだ。

現代の西洋医学は「人間の作りは最高」というスタンスが、スタート地点になっているように感じる。だから、今に向かって治療しようとする。しかし、人間の体はまだまだ進化の途中だと私は主張する。

これからどこに向かって進化するのか、それも道は幾つもある。つま先で走って跳んでいるスポーツ選手……。しかし、これまでの人の進化の成り立ちを考えれば、本来、人は「かかと歩き」を推奨せんといかんのですよ。そうすると、治療の仕方もガラッと変わってくる。力学的に無理があるのが人 間の体。人の進化形に向かって治療をしようという話。

腰の進化形に向けて

整形外科の治療は、痛いところを診るのが普通だ。だが、私は必ず腰を診 ることからスタートする。なぜ腰がスタート地点なのかというと、人間は進化の途中で急速に二足歩行になってしまい、進化が不十分なため、どうしても腰がウィークポイントになっているからだ。そこを治さなければ、他の症状も取れない。治療の根本は、腰の進化形に向けて姿勢を矯正すること。

宇宙で治療

医学は理論だと思う。経験だけでは未来に活かせない。特に整形外科は、内科から言わせると「バカ医者」って思われているようだが、整形が一番力学的で理論的だ。私の医療や治療に対する考えやベースは、若いころから変わっていない。若いころは、医療と重力の関係に答えが出せると思っていた。 限界も感じているが、重力を解(と)くことができたら最高の治療ができる。

そうすると、人間の重力不適応疾患は全部消える。もうすぐ宇宙船に乗って、地球を宇宙から一周しようという時代が来る。そうなれば治療方針も違ってくるだろうし、宇宙で治療するような時代もやってくる。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『治療の痛みは喜びの涙 ある整形外科医の言いたい放題』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。