第一章 全ては人間の進化と重力から

スミソニアン博物館

アメリカでの肩関節学会に行ったとき、ニューヨークのスミソニアン博物館を訪れた。ここでは恐竜の時代から現代の人類に至るまでの肩甲骨(けんこうこつ)が展示されていて、骨の変化や進化の過程を見ることができる。

私が興味深かったのは、恐竜などは単純な荷重関節で肩峰(けんぽう)などの部位がなかったことだ。地球上の動物は重力下において、さまざまな進化を遂げてきた。しかし、そうした中で人類は、まだ十分な二足歩行に適応できていないといえる。私たちは重力に負けて肩が下がり、筋肉や神経が引っ張られ、肩の張りやしびれなど 諸々の症状につながっている。

目指すは抗重力

姿勢私が目指すのは、地球の重力に対して姿勢を保持するための「抗重力姿勢の確立」とでもいうべきか。人間は進化してきた過程の中で、重力に負けない姿勢を獲得せんといかんのです。ただ、今の人類の体型は、それを可能にするのは無理がある。

人間の進化は早過ぎた

肩こりと腰痛は、起立歩行している以上は必ず出る症状といえるだろう。人類がまだ不適応といったほうが正解で、未進化ということだ。人間は間違っても神に似せてつくられていない、要は、出来そこないということだ。

四足歩行からの進化が早過ぎたのだ。早く立ち上がってしまったというべきか。 猿まわし牧場のお猿さんたちの立ち姿をレントゲンで見ると、背骨がストレート、真っすぐな状態である。一般的には「生理的S」が重要といわれているが、背骨に曲がりがあると、構造的に弱い。ストレートのほうが強いのだ。

猿は背骨が起立歩行用に発達していないので細い。そのため、立つと真っすぐになる。ところが人間は、早く立ち上がった関係で背骨が太く進化した。上の骨は細いけど、腰回りの腰椎関係は全て大きい。だから、少々変な格好でも耐えられた。

ただし、それは人生30年40年の世界の話で、それまでは壊れながらも十分機能する。だが50歳くらいになると、もう持たない。間違っても人間は100年生きるようにはできていない。

[図1]生理的S

肩こりは腰からくる

肩こりは、肩甲骨周囲の筋肉が重力によって下方に引っ張られ、血流が途絶えた状態となり、痛みやしびれなどを引き起こした状態だ。肩こりが発症したときの鉄則は、決して「揉 も まない」「叩かない」こと。

運動などで発生する筋肉痛は、マッサージなどで「和らぎ」の効果が得られるが、肩こりは、揉んだり叩いたりすると気持ちはいいかもしれないが、筋肉がどんどん壊れて伸びていく。

これを繰り返すと「頸肩腕(けいけんわん)症候群」に進行する。頸(けい)は首・肩が下がってくると首の筋肉が引き延ばされて、首から手に延びる神経が引っ張られる。程度が強いと手がしびれたりする。

これが進行すると、首の根元にある星状神経節(せいじょうしんけいせつ)(自律神経の集合体)がオーバーヒートし、胸から上の血管の拡張と瞳孔(どうこう)の散大が起こり、疲れ目やのぼせの症状が出る。そうなると、薬で治そうとしても、物理的刺激が原因で起きたものには効果は限定的だ。

肩こりの始まりは腰にある。腰痛持ちの人は、たいていが肩こり症だ。別々の病気ではないということを強調したい。首も肩も、腰・膝(ひざ)・足も、全部つながっている。

これまで記した、一連の重力に負けた人たちの病気。どこか痛むとなれば、全部、治さんといかんのです。その核となるのが腰骨。姿勢矯正で腰骨を真っすぐにして眠る習慣をつけなければ、症状の進行は止められない。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『治療の痛みは喜びの涙 ある整形外科医の言いたい放題』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。