はじめに

ここ六年余という短い間ですが、時の折々に在って見て感じた事や、また出会って考えた事などを短歌の形でまとめました。

精神的な概念や感慨のようなものを表すには様々な文章表現の形があるなかで、私は、幼い頃に出逢って以来愛着を持ち続けてきた短歌を選んだのです。単に好きだから詠むということに他ならないのですが、表現せずにはいられない自己の心情などを、全く自由にそして素直に、平坦な文章ではなく感動的かつエッセンシャルな表現でと願う私の気持ちに、古来より日本の精神を貫いてきた音韻定型詩である短歌こそが応えてくれ、また私の心の琴線を振らすように感じております。

五七五七七句の拍音より成る短歌は魅力に満ち満ちています。自然の美しさや人々の温かい愛に出逢う事が出来ます。自己の生きざまや正直で純朴な感情、心の内奥との出会いがあり、偽りのない真実な魂の触れ合う対話の世界でもあり、そして更に相互間の融合へとも導くのではと夢想いたすものです。

この度、若輩ながらここ数年にわたって時有るごとにこつこつと詠み続けて来た、私の短歌を皆さまの御前に著わすことになりました。前半の一七〇四首は東京在住中に詠んだ作品で、後半の一八○○首は中国の友人の紹介もあって渡中した先の、無錫・江南大学留学中に詠んだ作品です。

特に、自然存在は浅学菲才な私に沢山の事柄を教え、身に余る程の心情を扶養してくれたように思います。そして、今も私の人生に多大なる教育的影響と感動的な励ましとを与え続けております。

これは、私がこの地において、確かに生きて来た証しの作品です。ご愛読下さる皆様のご期待に充分に応えられ得るものかどうかは分かりませんが、詠む者と読む者とにおいて些かなりともスピリチュアルな対話空間が生起し広がり行けば幸いと思います。どうぞ、ご笑読下さい。果てしなき理想に向かい……。

上條草雨

※本記事は、2012年12月刊行の書籍『歌集 星あかり』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。