第一章 嫁姑奮戦記

昼頃姉が来てくれる。持って来てくれたおにぎりを二人で食べる。姉たちにも世話になったが、これが病院での最後の昼食となる。

娘が四時頃交代に来てくれる。最後の夜くらいは寝てくれたらよいのだが。

家に帰ると礼文島に居る息子から電話がある。姑が明日退院することを告げると、良かったねと言いながらも、正常に戻るかなと心配している。どうにかなるでしょう、あんたも気をつけてと、電話を切る。娘と違ってこの子はこんな時、いつも家に居ない。

六月三日、いよいよ姑退院の日である。四月六日に入院してほぼ二ヶ月、この病院にお世話になった。詰所から目の届く大きな窓のある部屋を長い間占領し続け迷惑もおかけした。

この大きな窓から姑はよく詰所を覗いていた。ある時は集会所かと聞き、ある時は近所の出版社の名前を言い、ある時は工場かと聞いた。

どうして最後まで詰所かと聞かなかったのかと考えてみた。多分、姑は「詰所」という言葉も、どういう所かも知らなかったので、出て来なかったのだと思う。今まで 一度も詰所に行ったことのない幸せな人だったのだ。

娘が最後の夜は付き添ってくれた。やはり食後三時間ほど寝て後は明け方まで妄想でお喋りし、動き回ったそうだ。

前日は普通の者でも興奮して眠れないのに、姑が大人しくあろうはずがないとは思っていたが。

午前十時退院ということなので早めに行く。

朝一番に胃カメラに連れて行ったそうだ。まだ完全には治っていないとのこと。二週間分のお薬をいただく。

シャワーを使わせ、さっぱりしたところで身支度させる。

支払いを済ませ詰所に挨拶に行く。朝の忙しい時間帯だったので先生も不在、看護婦さんも二、三人だけだった。皆さんにお会いしてお礼が言いたかったのだが。

荷物はぼつぼつ自転車で持ち帰っていたので少ないと思ったが、結構ある。

看護婦さんが車椅子を押してタクシー乗り場まで見送ってくださる。姑はあたふた する私たちを尻目に静かだった。

※本記事は、2018年1月刊行の書籍『嫁姑奮戦記』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。