はじめに

100年という歳月(さいげつ)は、宇宙137億年の開闢(かいびゃく)からすればほんの一瞬に過ぎないが、人間の寿命からするとずいぶん長いと感じる。ましてや急速に発展し続ける科学の世界においては、気が遠くなるような、とてつもなく長い年月だ。

私たちにとって身近なテレビや携帯電話にかかわる半導体(はんどうたい)、生命にかかわる医学といった先進科学が発展し始めたのは、せいぜい、ここ10年から長くて30年のことである。この科学の片隅(かたすみ)で、本書で扱おうとしている「超電導(ちょうでんどう)」は、1911年に発見されて以来、なんと100年以上の歴史を刻(きざ)み続けている。

人間の寿命に勝(まさ)ろうとして、いまなお息づいているのはなぜだろう。それはおそらく、人類が見つけ出した、捨てがたい叡智(えいち)の結晶だからであろう。みなさんは、この超電導が私たちの生活にどのようにかかわっているのか、ご存知ではないと思う。

まず、病院の診断装置であるMRI、そして、日常めったにお目にかかることのない物理学分野の実験装置。中でも粒子(りゅうし)加速器という装置は、宇宙の物質の重さの起源を解き明かしたとして、ノーベル賞受賞の立役者にもなった。この他、超高速リニアモーターカーや電力損失(そんしつ)のない送電ケーブルなどへの応用も提案されているが、その実現には、いましばらく時間がかかりそうである。

超電導の歴史は、壮大(そうだい)なものがたりでもある。多くの人が、そのものがたりを伝播(でんぱ)し、超電導を一般社会や人々の日常生活に馴染(なじ)ませようとして様々な工夫(くふう)を試(こころ)みている。筆者も恥ずかしながら、その一人を買って出ようとしている。

科学と日常生活を結びつける方法のひとつに文芸がある。科学アニメ、SFマンガ、SF小説などは、日頃手に取る方も多いことだろう。しかしここでは、「歌仙(かせん)」という大和(やまと)民族がつくりあげた文芸的手法を取り込んでみなさんに紹介しようとしている。

歌仙はもともと、和歌の世界から生まれたもので、江戸時代の俳諧(はいかい)や連歌(れんが)が発展した36句形式の連句(れんく)である。最初に「5・7・5(長句)」をつくり、次は「7・7(短句)」をつくり、次はまた「5・7・5」をつくり、そのまた次は「7・7」をつくり……と、このようにして連々と36句を詠(よ)みあげる。

この形式をつくりあげたのは、松尾芭蕉(まつおばしょう)だといわれている。本来、歌仙は3人や6人で詠むことが多いが、敢えて筆者の独吟(どくぎん)による「ひとり歌仙」を紹介する。ひとり気楽に詠んだ歌仙をひも解きながら、日常会話の中に超電導が和(なご)やかに、あるいは微笑(ほほえ)ましく溶(と)け込むことを念じるものである。

※本記事は、2016年4月刊行の書籍『ひとり歌仙』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。