研究ノート・1

バドイ民族のこと

── キキ・ムルヤディ(インドネシア)

バドイ民族のことを聞かれて、私は幼い頃の祖父の話を思い出しました。

私の祖父は公務員でしたので、七年間(一九六二~一九六九)バドイ民族の住んでいる西ジャワのバンデン地方に転勤していました。彼らはスンダ民族の一部族です。

祖父はスンダ語を話しますが、バドイ族のスンダ語は古い方言を使うために、時々半分しか分からないと言っていました。祖父から聞いた話は、バドイ族と物を交換する話です。

塩はバドイ族にとって一番大切なものです。バドイダラムの人は、いつもバドイルアルからもらっているそうです。夜中に村の入口に置いておけば、次の朝にバドイダラムのいろいろな物と交換されていたという話です。

残念ながら二倍年暦については祖父も分からないと言っていました。その理由は一度しかそこを訪れたことがないからです。だが、あったとしても暦のせいかもしれません。インドネシアでは私たちジャワ民族も特別な太陽暦を使っています。

またバドイの人たちは戸籍もないと思います。彼ら民族の内部はインドネシア政府から独立しているので、身分証明書といったものを持っていないし、その子供たちもインドネシアの義務教育(九年制)を受けていません。

ただバドイ人の平均寿命は普通のインドネシア人より長いといわれています。ほとんどが七〇歳を超え、一〇〇歳を超えている人もいます。

長生きの理由として、次の二つが挙げられています。

最初は動物を殺してはいけないため、野菜しか食べないという理由です。

最近流行の「健康のための菜食主義」みたいなもので、肉はいろいろな病気の原因となるといって、大半の食生活はおかず無し、ただのご飯と味付けだけです。食べ物はかなり単純で、野菜や果物など健康に良さそうなものだけ食べますから、それが長生きの理由とされています。

二つ目には「歩くこと」です。

毎年四月と五月にはバドイ村は外から訪れる人に閉めます。この時期にセバという祭りがあります。

この祭りでプ・ウン(村長)が代表たちを送って、近くの市役所みたいなところに行き、政府に農産物を上げます。毎年この祭りに代表たちは一五〇キロを歩いていきます。帰りは車で送ってあげると言われても断ります。

最近では旅行するバドイルアルの人が多いです。あるバドイ民族の男は、よくジャカルタに行きます。ジャカルタに行くには三日(一二〇キロ)かかります。しかも裸足で歩いてです。食べ物と水は道端にたくさんあると言っていました。

私はやはり体力が違うのかなと思います。彼らは山では毎日裸足で歩いていますから、私のように毎日パソコンの前に座っているだけだと、運動不足で早く死ぬかもしれません。

新しい情報はまたメールで送ります。

『なかった──真実の歴史学(第3号)』(ミネルヴァ書房)所収

※本記事は、2019年7月刊行の書籍『神話の原風景』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。