第一章

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食事を済ませたあと、博昭は電車を乗り継いで、町田のホテルに入った。風間が用意したビジネスホテル。部屋に入ると、服を脱ぎ、ブリーフ一枚になった。

それから、腹筋百回、腕立て百回を各三セットこなし、シャワーを浴び、ミネラルウォーターを飲んだ。裸のまま備え付けの椅子に腰掛け、パソコンを起動する。女のことを考える。

下北沢の駅前でうずくまった女。風間が依頼をしたターゲット。

パソコンが立ち上がった。2000年問題だのなんだのと騒いでいたが、パソコンは正常に起動した。風間からメールで送られてきた調査ファイルを開く。

あの女の情報。もうすでに何度も見ているが、本人を観察した後はかならず見るようにしている。情報に血肉を与え、存在を明確にするために。

女。雨水今日子。二十二歳。博昭より二歳年上。写真を眺める。

舞台で撮られたものであるためか、実物の印象とは若干違う。実際に見た雨水今日子は小柄で華奢だったが、舞台上ではより大きく見える。また、写真ではショートカットの髪が、現在は肩まで伸びているため、実物の方が女らしく見えた。

さすがに女優を目指すだけあって、目鼻立ちははっきりしている。ただ、泣き出しそうな二重の目は、森で迷った小鹿のような雰囲気で、女優をやるにしては少し頼りないような感じがした。

風間の依頼は奇妙だった。

「ある女性をしばらく内密に監視してほしい。とりあえずは一週間くらい。頃合いをみて、こっちから連絡するさかい、見つからんように尾行してくれ」

そう言うと、風間は自分の財布から札束を取り出した。

「とりあえず五十万。活動費や。足りんかったらいつでも言うてくれ」

風間はテーブルに札束を置くと、博昭をじっと見つめながらこう言った。

「理由はまだ聞くなや。工藤ちゃん」

あれから一週間。女は日に日に元気がなくなっていくようだった。そしてきょう、突然路上でうずくまった。あの女、病気か?

ファイルを読んだ。ファイルには黄ばんだ新聞記事のコピーが挟んであった。

※本記事は、2017年12月刊行の書籍『永遠と刹那の交差点に、君はいた。』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。