喜歌劇『クローディアスなのか、ガートルードなのか』

登場人物

クローディアス … 先王の弟、後にデンマーク国王
ガートルード …… デンマーク王妃、ハムレットの母
ポローニアス …… 内大臣
ハムレット ……… 先王の息子、デンマーク王子
女官長
執事
肉屋
肉屋の女房
パン屋
酒屋
酒屋の女房
大工
鍛冶屋
伝令

デンマーク・エルシノア城内および城下での出来事。

舞台の平面(平舞台)に二段重なる様式の馬蹄形三層の舞台装置。

上舞台と中舞台の両端は「廊下」となって上手・下手袖まで伸びている。

上舞台には左右対称的に二本の柱が立っている。

上舞台中央奥に、国王・王妃登退場のための階段が設置されているが、客席からは見えない。

場面設定として、テーブル・椅子・ソファなど小道具を用いる場合もあるが、原則的には何もない空間である。

第一幕

第八場 エルシノア城下の空き地​

テーマ音楽。

弔砲が放たれる。間。

暗闇の中から「声」が聞こえはじめる。

平舞台に薄暗い明りが入り、固まっている民衆が浮かぶ。

一週間後。

あれはなんだ あれはなに
あれはなんだ あれはなに
弔いだ 弔いの大砲だ
弔いか 弔いの大砲か
誰が死んだ お城の中で
誰が死んだの お城の中で
お偉い人だ お城の中の
お偉い人か お城の中の
(高みから竪笛の音が流れ、一同は気づく)
王様か 王様だ
王様か 王様だ

ひときわ大きな弔砲の音が響き、上舞台の伝令に光があたる。

伝令: そうだ、王様だ! (一同が振り向いて、伝令を見上げる)そうだ、王様が亡くなった。国王陛下が亡くなった。このデンマークは喪に服すのだ!

伝令が上舞台から一気に平舞台に駆け降りると、一同は取り囲む。

大工: ど、どうして亡くなったんだ? 急病か? この前ここを通った時にはお元気だったぞ。
鍛冶屋: 確かに。ご帰還の際には、颯爽(さっそう)と白馬に乗られ隊列を率いてお城に入って行かれた。
酒屋の女房: ……余裕たっぷり。顔の色つやもよかったし。
肉屋の女房: そりゃあんた、別のお城でゆっくりお愉しみだったからさ。
酒屋の女房: あ、そうか。(顔を見合わせ、笑う)

伝令は皆のそばを離れ、亡き王を偲ぶように竪笛を吹き始める。

酒屋: お帰りになった日にはな、城下を駆け回ってワインを五十本もかき集めたんだぜ。手間は掛かったが、その分、実入りもよかったがね。
パン屋: 手間なら、俺さまのほうが掛かったぜ。お帰りの日に五十本、翌朝には焼き立てふかふかのパンをもう五十本お届けしたんだからな。
肉屋: じゃ、なんで死んじまったんだ? 酒の飲みすぎか、パンの食いすぎか……。
大工: ご帰還されて間がないのになあ……。病気でないとすると……。
鍛冶屋: ……何かが起きた。
酒屋の女房: 何かって?
鍛冶屋: 不慮の事故か、はたまた陰謀か。
酒屋の女房: ふん、難しいこと言っちゃって。
肉屋の女房: また、受け売りだよ。

笛の音が止まる。伝令はあふれる感情を抑えようとして背を向ける。

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。