第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-5 技術と科学

2. 研究とは

研究とはどういうものでしょうか。世のなかに「研究」であると認められるためには、次の要件を満たすことが必要です。

新規性:これまでに知られていない知見を見出すこと(新しい知識や技術を生み出すこと、独創性、オリジナリティ)

信頼性:その手法や結果に間違いがないこと(信頼性、他の人でも同様のことをすれば同様の結果を得ると考えられること)

有用性:その知識や技術が有用であること(学術的有用性、社会的有用性)

その研究で得られた知見が、これまでに知られていない新しいものであることが第一条件です。すでにわかっている法則を自分で発見しても、それは学術的な研究成果とは認められません。

既存の技術と同じものを自分で発明しても、やはり研究としては認められません。これまでにない新しい知識や技術を生み出すことが絶対条件なのです。

第二に、その結果を得る手法やデータの処理などに間違いがないことが必要です。他の人が同じように行えば同じ結果が得られると考えられる信頼性が必要です。

実験の途中で処理を間違えて、実際の条件とは違うのに、この条件でやったらいい結果が得られたという嘘の知識を作り出してはなりません。あるいは、得られたデータの処理を間違えて、嘘の結果を出すことも許されません。

第三に、得られた知識や技術が科学的に意義のあるもの、あるいは社会的に有用なものであることが必要です。

3. 工学研究と特許の関係

工学の研究には、新しい技術の開発に関わる研究も多いため、企業と連携した技術開発の研究も多いのです。産学連携研究は活発になっていますが、企業は新しい商品の開発・販売が目的であって研究論文の発表が目的ではないので、論文の発表に対しては否定的な場合もあります。新しい商品の技術的な内容をすべて公開してしまうと、他社に同じものを作られてしまうからです。

企業が新しい商品を開発する場合には、その技術が真似されないように特許を出願し、知的所有権を確保した上で開発を進めます。特許とは、その技術の内容を一般に公開しますが、その技術を使って販売する権利を一定の期間独占することができて、他社が同じものを販売してはならないとする制度です。

したがって、企業は新しい商品の技術に関わる特許を多数出して、他社に真似されないように努めています。個人や研究者が発明をして特許を取得した場合、その特許を用いて商品を開発・販売する権利をある企業に売ることもできます。その場合は、企業が特許使用料を発明者に支払います。

大学の研究者が特許を取得して、その技術を企業が実用化した場合には、企業が大学に特許使用料を支払います。特許を取得するためには、その知識が一般に公開されていない(公知になっていない)ことが必要です。公知になっているものは特許になりません。

自分の発明であっても以前に自分がその知識を発表していたり、それに関わるものを特許として取得していたりすると、「すでに公知であるから特許にはならない」とか、「先行特許があり、今回のものはそれから容易に推考できるものだから特許にならない」ということになります。

研究者は、論文を発表してその技術の発明や技術に関わる知見を一般に公開して、その知見を見出したのが自分であることを認めてもらうことを目指します。しかし、その知見を活用して企業が新しい商品を販売するためには、特許を取得しておくことが必要になるため、研究発表の前に特許を出願しておくことが必要になります。逆に言えば、特許出願の前に論文発表することができないことになります。

研究成果を公表することと、研究成果を実用化することとが相対立することになりますが、技術を実用化するためには、特許の取得と成果の公表について適正に処理する能力も研究者には求められています。特許申請と研究発表との関係はちょっとわかりにくいので、下記の図にそれぞれの意義を示します。

 [図] 発明と研究発表

なお、特許は技術に関わる知的所有権なので、科学的な発見そのものは特許にはなりません。科学的な発見は、一般に誰もが知り、活用できるものとして確保されるべきものです。

また一方、企業が持っている知見でも、生産技術に関わるノウハウのようなものはあまり特許に出されません。特許として公開してしまうと他社がそれを利用して生産を行うことができ、その工場が公開されていなければ、特許を侵害する製造技術を使っているかどうかをチェックできないからです。一方、製品の場合はそれが市販されていて、特許を侵害するものが使われているかどうかをチェックすることができるので、特許を申請するのです。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。