第2章 あなたの心は健康ですか?

③ 心が健康である条件​

『風に立つライオン』にみる心が健康である要素「強み」

「心の健康」とは何かを考える時、重要なことがあります。それは単に、悩みや不安がない状態、または、うつ病などの心の病に罹っていないというだけではありません。心の健康に欠かせない要素を持ち合わせているかどうかが大切だということを、この章の最後に考えてみたいと思います。

さだまさしさんの代表曲のひとつに『風に立つライオン』という楽曲があります。小説や映画にもなりました。この楽曲は、海外医療援助のためアフリカ、ケニアに派遣された医師の実話をもとに書かれたものです。愛について、人について、そして大自然について描かれたスケールの大きな曲は、多くの人々に感動を与えてくれています。

この楽曲の歌詞の中に、「診療所に集まる人々は病気だけれど、少なくとも心は僕より健康なのですよ」という一節があります。医師は、日本とは比べようのない過酷な医療の現場で働くことになるのですが、そこで出会った患者たちの純粋な心と、瞳の美しさに心打たれます。現地の人々は、明日の生活にも健康にも不安はあるけれど、今日一日を精一杯生きていることには誇りを持っています。

この曲を聴く度に、彼らの生活は、不自由だけれど、決して不幸ではないのだろうという思いとともに、雄大な自然の恵みが鮮やかに浮かび上がります。都会での生活は便利ですが、ストレスは多く、人間関係は希薄になり、隣に住む人がどんな人なのかさえよく知りません。

一方で彼らは、一日一日を自分らしく生きる覚悟や共同生活が生む連帯感など、私たちが失ってしまったものを、守り続けて生きているからこそ、輝く美しい瞳と、健康な心を、その手に持ち続けていられるのだと感じます。ポジティブ心理学を提唱したセリグマンは、心の健康を考えるとき、基本となる要素とは、人が社会生活を営む際に必要な「強み(strength)」であると述べています。

ここで言う「強み」とは、自分の心の状態や生き様をきちんと見つめて、それを受容することができること。自分を信じて、打ち込めるものに挑戦できること。そして、他者との交流ができ、一体感が持てること。これらが、心が健康である条件といえるのです。

たとえ病と向き合っているとしても、「強み」は、心のあり方です。だとすれば、『風に立つライオン』に登場する人々は、まさしく、これらの「強み」を持って、今この時を生かされていることに思い上がらず、今日という日を真剣に生きることの大切さを、私たちに教えてくれているのだと思います。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『Over Thirty クライシス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。