驚くなかれ、近年では、国会議員に限らず、地方議員にもこの手っ取り早いシステムを活用する(やから)がいるよ。特に近年では二世、三世の国会議員が増え、猫も杓子も二世、三世議員だ。統計を取ってみれば、全議員中に二世、三世議員の占める割合はいかほどか驚くような数字になるに違いないよ。特に自民党議員に多いのではないか。

世界の政界に目を転ずれば、一部の国でもこの世襲政治が猛威を奮っている。アメリカ、北朝鮮、中国などがそうだよ。ルーズベルト家が良い例だ。さすがに民主主義国の多いヨーロッパでは少ないようだね」

「へえ」

と雄太は感心した。山本さんは〈どうだぁ青山君、面白い話だろ〉と言わんばかりに、はや顔色が桜色に変色した彫の深い顔を手で上から下へとなぞった。実は僕と柳沢仲秋議員の女性秘書である有馬恵子とが懇ろになっていることを山本さんは知らない。この晴男氏には雄太も何度か会っている。

というのは晴男氏も九段議員宿舎に住んでいた。雄太とは別棟ではあるが、一号棟、二号棟へは外部へ出ることなく繋がっており、廊下を通って行き来ができるようになっていた。三号棟と四号棟は一、二号棟よりは部屋の面積が広い。雄太は一号棟、晴男氏は二号棟に居を構えていたから、山本さんが上京のときは山本さんが同居する晴男氏と挨拶しないわけにはいかない。雄太がぞっこんの京極貴美子の部屋もこの岡田議員の部屋と同じ廊下に面していた。

山本さんが上京してくるのは月に二、三日程度だが、上京の折は晴男氏の部屋にご厄介になることとなる。上京時には山本さんとは必ず雄太の一○一号室での飲み会となる。議員自身が寝泊まりし、国会活動に励んでいる議員も多いが、御子息、御息女や秘書が同居して利用していることも散見される。宿舎は議員専用の食堂や浴室もあるが、これとは別に家族用の食堂や浴室もあり、雄太も毎日のように利用するから自然と議員子女や秘書との交遊も盛んとなる。

雄太の「親父さん」は社会党の衆議院議員であったので、自然に社会党議員の子女や秘書とも仲良くなることも多い。自民党の議員子女との交遊は少なかった。しかし宿舎から議員会館へ向かう定期バスは自民党や社会党の議員とは関係なく、様々な会派の議員が利用していた。戦後初めてとなる女性大臣の中山マサ厚生大臣もよく利用。議員会館へ向かうバス内では彼女が独断占拠の体で、さしもの男性議員も彼女の公言を拝聴せざるを得なかった。

この当時、中山大臣は飛ぶ鳥を落とす勢いであり、しかも現役の大臣で弁が立ったから、彼女の言動には逆らえない。議員宿舎と議員会館とのシャトルバスで、雄太も中山大臣と隣り合わせの席の時があった。その時には、あの大きいお尻の横で、雄太は身を縮こませて議員会館までの二十分もの間、バスが揺れる度に「ひゃー」と叫びたくなり、悲鳴をあげるほどに我慢を強いられた。

※本記事は、2022年8月刊行の書籍『議員宿舎の青春』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。