プロローグ 事故

大きな足音がして、若い男の人とおばさんが早足でやって来た。千恵姉ちゃんのお母さんの静恵おばあちゃんと弟の恵三兄ちゃんだった。そのあとすぐにお父さんの仕事仲間の平井のおじさんと若い人が作業着でやって来た。

急に廊下がにぎやかになって、由美が目を覚ました。僕たちのことをテレビのニュースでやってたとか、居眠り運転とか、故障で止まっていた大型トレーラー、とか話しているのが聞こえた。

あれは高速道路のオレンジ色の灯りだったとか、救急車に乗るときに赤黒いコンテナが僕たちの車のすぐ前にそびえて見えたこととか、白いヘルメットをかぶってオレンジ色の服を着た人たちが車に群がって、お父さんとお母さんを降ろそうとしていた所や、僕の前を由美が救急車の人に抱っこされていたことや、おばあちゃんらしい人が車輪のついたベッドで別の救急車に乗せられて、頭に包帯が巻かれていたことなんかが次々浮かんだ。

平井のおじさんが僕の頭に手を乗せて、ため息をつきながら「ヒロ坊。大変だったなー……辛いだろうけどお前はしっかりするんだぞ……ヒロ坊と由美ちゃんが無事でよかった。奇跡だ」と、最後は小さな声でつぶやいた。

また涙が湧いてほっぺたをつーっと流れた。喉にかたまりが上がってきた。おじさんの顔を見続けることができなかった。平井のおじさんは僕たちが生まれる前からお父さんの友達で、よく家に来たから、お祖父ちゃんや昭二兄ちゃんたちよりもたくさん会っていた。

おばあちゃんの病室にはお祖父ちゃんがベッドの脇にいた。大人たちが話しているから、僕はおばあちゃんのそばに行ってみた。おでこから頭にかけて包帯が巻かれておばあちゃんは眠っていた。

お祖父ちゃんは、おばあちゃんが前の座席に押しつけられて両方の足を骨折して、肋骨も折れて頭を強く打っていて、脚の手術をすると説明した。最後にぽつんと「俺も一緒に行っていれば運転を代わってやれたんだ。そうすりゃ居眠りなんかしないで……」

最後は聞こえなかった。お祖父ちゃんは後ろを向いた。お祖父ちゃんは泣いていた。お祖父ちゃんの短い白髪頭から目が離せなかった。