第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-5 技術と科学

1. 科学・技術と工学

本節では、技術と科学との関係について考え、研究者の世界について触れ、研究倫理についても述べます。科学、技術、工学とは何か、それぞれを簡単に記したものを図1に示します。

科学は自然や社会における原理や法則を解明することを目的としています。自然現象に対する観察や測定から始まり、その現象を支配する法則、メカニズムを分析し、仮説やモデルを立て、今度はそれが正しいかどうかを検証する実験を行います。

研究は、観察や測定による発見であったり、法則やメカニズムに関する理論的考察、モデルに基づいて現象を予測するシミュレーション(解析)、実験を用いた実証であったりします。観察や測定を行うための装置や技術の開発も、科学的な研究です。

それらの結果は、学術雑誌に投稿して発表したり、学会の講演会で発表したりします。人間と科学との関係を象徴的に表す言葉が「発見」という言葉です。原理や法則はあくまで自然に存在するものであり、それを人間が発見するのです。

写真を拡大 [図1] 科学、工学、技術とは

技術は、科学的な原理を使い、何らかの目的を実現するために人間が作った機械や装置、設備、ソフトウェア、それらを動かすための手法などを指します。人間と技術の関係を象徴的に表す言葉が「発明」です。

技術は自然界にあらかじめ存在したものではなく、人間が科学的な原理を知っていたかどうかにはかかわりなく、工夫して作り出してきたものです。技術を作るには必ず目的があります。人間が何らかの目的を設定し、その目的を実現するために必要な機能を分析し、必要な原理・知識を使い、各種の材料や部品を用いて目的を達成するシステムとして構成したものです。

工学は、簡単に言えば技術に関わる科学ですが、技術に関わる知見を明らかにする「発見」と技術を作り出す「発明」の両方の側面を持っています。科学が原理や仕組みを解明することを特色としているので、技術に関わる原理の発見や現象の解明を行う研究もありますが、一方では技術を作り出すこと、技術を作り出すための試みとその現象の解明などの研究もあります。

技術は人間が作り出していくものですから、既存の技術を対象にして研究するだけでなく、今後の新しい技術を生み出すための研究もあるわけです。技術は必ず自然法則に則って動いているものですから、技術の現象を明らかにしていくことは自然科学における研究と共通します。

一方で、新しい技術を作り出すためにある現象を適用した装置を作ってみたり、いくつかの原理を組み合わせて新しい機能を持った技術ができたりしないかと、「発明」に対するチャレンジを行い、それが有用であり、新しい知見を生み出しているかを確かめていくのも工学的な研究です。

科学と技術は2のように、相互に作用しています。科学的知識を活用して技術を作るのですが、科学から技術への一方通行のみではありません。科学の知見が発展してきたのは、技術の発展があったからでもあります。

科学的な発見は、顕微鏡や望遠鏡などの観察技術、物体の速度や光の速度を計測するなどの計測技術、実験装置や分析装置の技術などに支えられています。技術の進歩は、新しい科学的知識の発見を支えています。

写真を拡大 [図2] 科学と技術の相互作用
※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。