【前回の記事を読む】【第3回自分史コンテスト大賞作】「まるで『昔ばなし』に出て来るような山奥です」人生の轍を顧みる

第1章 記憶の始まり

私の家は、両親を呼ぶ時「お母さん」と「お父ちゃん」でした。

父は「お父ちゃん」と呼ばれるのが気に入っていたのです。

ちなみに、この頃私は自分の事を兄と同じように「おれ」と言っていました。この言葉が町の小学校に入学後、時々からかわれることになるのです。

土手の道の山際には、美味しそうに熟れた木イチゴが、枝もたわわにたくさん実を付けていました。でも、「木イチゴは食べてはいけないよ」と母から言われていました。木イチゴに似たヘビイチゴを、間違えて食べることがあるからです。

木イチゴを横目で気にしながら、その土手をまっすぐ行くと大きな十字路があり、その角にお店がありました。随分歩くのですが、一本道なので迷うことはありません。

お店の辺りまで来ると、家がまばらに並び人通りも賑やかです。時々、馬が荷車を曳いてポッコ・ポッコと歩いていました。道の中央は馬フンの山が続いています。

私は小柄だったせいか、「馬フンを踏むと背が伸びるよ」と言われましたが、私はとても踏む気にはなれませんでした。