【前回の記事を読む】受け取った“あの文豪”の名刺…「一枚の名刺にまつわる、一つの物語」

第一章──出会いのふしぎ

中学生のころ

中学生になっても思いは変わらなかった。

ただ、小学生のころと違ったのは、勉強と部活というものが加わってきたため、生活の時間の使い方が変わってきたことだ。中学校までは歩いて片道約三十分。

自転車通学も許された距離だったが、私は徒歩通学を選んだ。選んだ理由はいくつかあるが、その一つは、下校時にのんびり星空を見ながら帰ることができたからだった。

部活仲間とはおしゃべりしながら帰ったが、道中の半分もいかないうちにみんなと別れ、あとは一人で暗い道を歩いた。田い な舎かの田んぼに囲まれた道である。いまとは違って、防犯灯などはない。つまりは、星がよく見えていたのだ。

学校でおもしろくないことがあっても、テストの点数が思わしくなくても、星空を見れば気分はすっきりした。自分なんて、ちっぽけな存在なんだ、と思った。

星に向かって、悩みごとの相談もしていた。そんなことをどうやら担任の先生に話していたらしい。

当時は校長先生の方針で、三年間クラス替えはなかったうえに、担任も異動がない限り持ち上がりだった。私は三年間、同じ担任と同じクラス仲間と一緒に過ごした。

社会人になってからの同窓会で先生と顔を合わせることがあると、先生はいつでも私のことを名前ではなく、「おい天文学者、元気か!」と呼んでくださった。先生の専門の教科は理科だった。理科が専門の先生に、「ぼくは天文学者になりたい」といっていたようだ。