【前回の記事を読む】「絶対者の営み」を超えて考える。人類が進化した本当の要因は…

一 大自然

2 大自然の営み

(2)脳の創造・進化

「無脊椎動物では神経細胞は、せいぜいいくつもの集団(神経節といわれる)に分かれて体を支配しているにすぎない。ところが脊椎動物では、統一された一つの細胞集団(中枢神経系)が全身をほぼ支配している。そこには、地方分権国家と中央集権国家のような効率の違いがある。頭側先端の感覚器に集められた情報は、分析され意味づけされて行動決定に利用されなければ意味がない。この仕事をするために中枢神経系の先端も肥大してくる。これが脳である。」(山本健一著『脳とこころ』講談社1996)。

生物が進化して体の作りが複雑になってくると、それなりの身体制御装置が必要になってきます。脊椎動物では、全身の各細胞集団で受け取った刺激情報を一手に集約し、分析・意味づけして行動態勢を整えていく「中枢神経系」という部署ができてきたのです。その中枢神経系が、使用頻度で発達・進化してきたのがいわゆる「脳」であるということです。脳は、生物の進化に応じて使えば使うほど複雑化して今日の「人間の脳」の形態になってきたということになります。

図1「脳進化の年歴」(岡田安弘著『生命・脳・いのち』東京化学同人を参考に筆者作成)は、脳の進化してきた年歴を表す図です。

写真を拡大 図1 脳進化の年歴

地球上に生命体が誕生したのは、今からおよそ40億年前だといわれています。原始の海に細胞体として発生した生命体は、脳を持たない無脳生物でした。無脳生物としての生命体は、28億年もの年月を経てようやく脳幹・脊髄系の脳を備え持つヘビやトカゲ等のは虫類まで進化してきたということです。

ヘビやトカゲなどのは虫類は、さらに11億3300万年もの年月を経て、大脳辺縁系の脳をも兼ね備えたイヌ・ネコ等のほ乳類まで進化してきました。それからさらに6500万年もの年月を経てさらに大脳新皮質系の脳をも併せ持つヒト族が現れてきたということです。脳幹・脊髄系の脳と大脳辺縁系の脳と大脳新皮質系の脳の三拍子揃った脳を備え持つヒト族の誕生が、今から200万年前だということです。大脳新皮質系の脳はその後急速な進化を遂げて、わずか199万年後(今から1万年前)には、わたしたち新人類(ホモ・サピエンス)が誕生したということです。

大脳新皮質系の脳は、これから先もわたしたちホモ・サピエンスの力量次第でいかようにでも進化していける可能性を秘めています。信じ合い助け合って永遠の繁栄を獲得していけるのか、それとも自分(自分たち)ファーストの啀いがみ合いで自滅していくのか。それはまだまだ誰にも分かりません。万物の創造者大自然は、人類の未来を占うこの重大事態を人間自身の力量に委ねてしまい、素知らぬふりをしているのですから。