三.乱闘

実験室は簡素なつくりである。ガラス器具といくつかの試薬が収められている戸棚と、双眼実体顕微鏡が置かれている小さな実験台、それに蒸留水が入ったポリタンクといくつかの水質を測定する機器が何台か置かれているやや大きい実験台、これがこの実験室のすべてである。この実験室に、春のシャープな光が差し込んでいる。

久保田はガスバーナーと一Lビーカーで湯を沸かしていた。このビーカーを、軍手をはいてつかみ、急須に注ぐと緑茶の香りがふわっと広がった。手早く湯飲みに注ぐと、大河たちに緑茶を勧めた。大河に出丸、川原が少し口に含むと、さわやかな苦みが口に広がった。

大河は切り出した。

「ニシベツ実業高校のサケ稚魚が全滅したってことは、ご存じですよね」

「水温とpHには異常はなかった。しかし、溶存酸素が低くなって、電気伝導度が高かったんです」

「電気伝導度が高いということは、川の水が汚れているっていうことは分かるんですが」

「そもそも『電気伝導度』って何者か、俺たちにはよく分かりません」

出丸と川原もうなずく。久保田は少し考えたあと、ゆっくりと話し始めた。

「サケ稚魚の全滅が、電気伝導度のせいだと、ただちに言いきることはできないが……」

「電気伝導度が何者かは説明することはできる」

「簡単に言うと、水の電気の通りやすさ、これが電気伝導度だ」

「水に電気が通りやすいってことは、イオンがあるってことなんだが……」

「やってみた方が分かりやすいかな」

ここまで久保田は話すと、実験台にある電気伝導度計を大河たちの方に向けた。