手術・手術後

一 手術・入院

相変わらず食べるのには苦労していたが、目標がはっきりし、心は元気であったので入院生活を順調に送ることができた。毎日行う検査結果もよく、退院が予定していた日よりも早くなりそうなことを医師は伝えてくれた。私はできるだけ明るい気持ちで入院生活を送ろうとした成果ではないかと思い、とても嬉しかった。その嬉しがっている私に、医師は言った。

「退院してからのことになるんですが、抗がん剤を飲むか飲まないかを考えて頂きたい。戸隠さんの場合、幸い今のところ胃以外でがんは見つかっていませんが、胃ががんになったということは他の臓器もがんになることは十分に考えられます」

「抗がん剤か」

と私は思った。抗がん剤にいいイメージはなかった。確かに転移のリスクは減らすだろうが、ダメージが大きい気がしていた。医師は話を続けた。

「抗がん剤の効果は立証されています。がんが再発や転移をすれば大変なことになるので、できるだけ飲むようにしてください。資料はここに置いておきます」

資料を見ながら悩んでいた。抗がん剤を飲んだ場合と飲まなかった場合の転移や再発の違いが載っていた。飲んだ方が明らかに再発や転移が少ない。これが医師が言っていた抗がん剤の効果の立証ということなのだろう。しかし、この資料には抗がん剤を飲んだ時の大変さについてはあまり書かれていない。生と死を分ける問題だ。もっとよく調べてみようと思った。

いつものように晩に来た妻に向かって、

「今日、先生から抗がん剤を飲むか飲まないかを決めるように言われたよ」

「それで、あなたは何て言ったの」

「まだすぐ返事をしなくてもよかったから言っていない。でも、やめようと思っている」

「やめて大丈夫なの」

「そこが問題なんだ。もう少し調べたいので資料を持ってきて欲しいんだ」